書きものアーカイヴ
河北新報「座標」1 復興に音楽の力、息長く
- 2012.7.14
-
東日本大震災から2週間後、仙台フィルハーモニー管弦楽団と市民有志が「音楽の力による復興センター」(代表・大滝精一東北大学大学院経済学研究科長)を立ち上げました。復興支援コンサートへの資金協力依頼を全国の音楽家に呼び掛けるなどの活動には、従来のオーケストラ事務局とは異なる枠組みが必要との認識があったからです。
現在、長期にわたる復興に音楽の力で継続的に貢献していくため、このセンターの一般財団法人化に取り組んでおり、作業は詰めの段階に入っています。
東北地方のホールが甚大な被害を受けてオーケストラとしての活動ができるかどうかも不透明な中、取る物もとりあえず開始した事業です。それが、多くの地元音楽家やボランティアの参加、国内外からの力強い支援を得て、高い評価もいただきながら展開できるとは、当初は予想できませんでした。関係者にとって、大きな励ましとなりました。そして、250回を超える復興コンサートを開く中で、私たちは音楽の力が何であるかを体感してきました。
第1回の復興コンサートを開催したのは、昨年3月26日でした。会場はJR仙台駅東口から徒歩10分、片岡良和仙台フィル副理事長が住職を務める見瑞寺境内のバレエスタジオでした。「温かさ」「安らぎ」「祈り」で構成したプログラムをはじめ、大震災から2週間後にふさわしい工夫を重ねました。演奏する側も聴く側も共に被災者であったことから、互いの心が寄り添って大きな感動をもたらしました。その後の復興コンサートの指針ともなったのです。
続いて、仙台アエル1階アトリウムでの4月上旬から連日のマラソンコンサート、避難所や学校、全国各地から招かれての演奏、別れて住んでいる被災者が集まる場での再会コンサートなど、さまざまなケースを経験しました。その中から、プログラムの構成方法、トークのこつなど、多くの知見を得ることができました。
そして私たちは、「音楽の力」は抽象的な理念ではなく、極めて具体的な機能を持つパワーであることを実感しました。
例えば、大きなショックのために心を閉じていた人が、音楽を聴くことで感情を表に出し、心が動き出すということ。あるいは、復興に向かう被災者の心にエネルギーを充填すること。全国各地の方々と力強い絆・ネットワークを築けることなどが挙げられます。
復興センターの業務は、この「音楽の力」を被災者・被災地にどのようにつなぎ役立てていくか、ということに尽きると考えています。
センターの一般財団法人化は、さまざまな困難を乗り越え、長期にわたる東北の復興に音楽の力を役立てるため、さらに一歩踏み出したい、という決意表明です。それは次回紹介するように、大変難しい事業でもあります。大澤 隆夫
公益財団法人仙台フィルハーモニー管弦楽団参与
(2012年9月より一般財団法人音楽の力による復興センター・東北代表理事)