書きものアーカイヴ

河北新報「座標」2 被災地支援継続の礎に

2012.8.14

震災から1カ月もたたない昨年4月初め、仙台フィルハーモニー管弦楽団の神谷未穂コンサートマスターや他の団員は、最初に避難所を訪問する際、どんな曲がいいのかと悩んだ末、とにかく持てるだけの楽譜を持って出掛けました。楽団員の被災者への思いの強さを物語ると同時に、試行錯誤の連続からさまざまなノウハウをつくり上げてきた復興コンサートの一端を示すエピソードです。
被災地と音楽とを結ぼうとするとき、「どのような音楽を」「誰と一緒に」「どうやって届けるか」、そして「届けるだけでいいのか」といった基本的な課題に突き当たります。
仙台フィルは、本拠地である東北一円で、これまで数多くのコンサートを開き、地域の皆さんと共演し、あるいは指導に当たってきたことから、被災地にいわゆる「土地勘」がありました。同時に、それぞれの地域の皆さんと長い間に培ってきた信頼のネットワークが構築されていました。さらに、プロの演奏家集団として、室内楽から大編成まで、多様なチームを素早く編成して送り出す、という機能も備えていました。
こうした要素が重なり合い、「音楽の力による復興センター」との協力で、困難に立ち向かう皆さんと心を寄せるコンサートが250回を超えるという結果につながったのだと思います。
復興センターと仙台フィルが何とかやり遂げてきた、被災地と音楽を結ぶ作業は、これまでにはなかったプロフェッショナルな仕事ではないか、というのが大震災校の活動から得た確かな実感です。
音楽の力を復興に役立てるためには、プロとしての機能を可能な限り早期に組織化し、充実させることが必要です。そして、組織や活動資金とともに、この極めて技術的な要素を含んだシステムの構築こそ、いま取り組んでいる復興センターの一般財法人化の大きな目標でもあります。
さて、世界を代表するオーケストラ、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団がこの秋、被災地にやってきます。ウィーン・フィルとサントリー芸術財団が協力し、5年間にわたって被災地を訪問するビッグプロジェクト「こどもたちのためのコンサート」事業がそれです。復興センターと仙台フィルは、プロジェクトのパートナーとして地元でのコーディネートを含め、全面的な協力を依頼されました。これまでの経験や財団法人化を活かす機会と位置付け、期待に応えたいと思います。
1回目の今年は、ウィーン・フィルのコンサートマスターのフォルクハルト・シュトイデさん、首席フルート奏者のディーター・フルーリーさんをはじめ、15人の団員が遣って来ます。
11月1日に常盤木学園シュトラウスホール(仙台市青葉区)で「中高生のためのコンサート」。2日は岩沼市の岩沼西小と岩沼北中での演奏と交流、岩沼市民会館に被災者を招待してのコンサート。そして3日は仙台ジュニアオーケストラとのワークショップと、盛りだくさんの行事が予定されています。
被災地には国内外から数多くの支援が寄せられていますが、5年間に及ぶ継続的な支援のパワーは格別です。あらためて、音楽が世界の共通言語であり、音楽を通じて世界中の方々が心を寄せてくださっていることに深い感動を覚えています。

大澤 隆夫
公益財団法人仙台フィルハーモニー管弦楽団参与
(2012年9月より一般財団法人音楽の力による復興センター・東北代表理事)