書きものアーカイヴ
河北新報「座標」3 ホールでさらに進化を
- 2012.9.11
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仙台フィルハーモニー管弦楽団は昨年の東日本大震災後、最初の復興コンサートに続いて、4月5日、小規模の演奏を毎日同じ時間に同じ場所で開く「マラソンコンサート」をJR仙台駅前の「アエル」などで始めました。復興活動の第2弾です。実家が大きな被害を受けた1人のスタッフの命名により、長期にわたる困難な復興の日々に「音楽の力」で寄り添い、ともに走り続けようとの気持ちを込めてスタートしました。
ほどなく、こうした活動を知った被災地からもコンサートの依頼が届き始め、私たちは「マラソン」と並行して各地の避難所や病院に出掛けて行くようになりました。
ある日、アエルでのコンサートが終わり、担当スタッフが聴衆の皆さんにお礼かたがた、週末に訪問する避難所名をお知らせした時、思いもかけなかったほど力強い声援の拍手が湧き起こりました。被災者を励まそうとしている私たちが励まされている、という感動を覚えました。
同時に、仙台というまちは、音楽に大きな力があることを知っている「楽都」であることを実感した瞬間でした。
例年にない冷え込みや心が折れそうな余震の中、私たちのマラソンは無事に予定の37日間を「完走」することができました。そして、楽都の力は、その後もさまざまな形で発揮されました。
多くの会員が被災した仙台オペラ協会による創作オペラ「鳴砂」の東京公演、数多くの避難所などで感動を呼び起こした仙台市立八軒中学校の「あすという日が」の合唱、東北6県から1000人が集まり支援に感謝の歌声を響かせた大合唱祭、被災地の吹奏楽活動を支えた宮城県吹奏楽連盟の「楽器BANK」設立など、その例は枚挙にいとまがありません。
定禅寺ストリートジャズフェスティバル、とっておきの音楽祭、仙台ゴスペルフェスティバルなど、仙台の四季を彩る数々の音楽催事の実行委員会は、楽器や歌声を被災地に届けるために、プロジェクトチームやNPOを相次いで設立し、復興支援を継続しています。
また、仙台フィルの大震災後の活動は、「オーケストラが果たすべき新しい社会的役割を開拓」(奥山恵美子仙台市長)といった観点から、国内外の高い評価をいただくに至っています。
こうして、楽都・仙台は確実に進化を続けています。これは、例えばケヤキ並木や広瀬川の清流と並ぶ仙台の優れた資産であるとともに、「今後のまちづくり=仙台らしい復興」となる文化的資源と位置付けることができると思います。
この「楽都」を復興に役立てるには、ソフトからハードまで関連する各分野の充実を図ることが必要です。中でも国内外の音楽の力を集める充実したホールの存在こそが、その鍵になると考えています。震災後もさまざまな方がその必要性を指摘されています。私たちも今年1月に堺屋太一氏や近藤誠一文化庁長官をゲストに迎えて、シンポジウム「音楽の力に本拠地を」を開催し、多角的に検討を重ねました。
また、新たに設立した一般財団法人「音楽の力による復興センター・東北」(代表理事・大滝精一東北大大学院教授と筆者)でも、復興におけるホールの位置付けやまちづくりの可能性についての学習を、市民の皆さんと継続していきたいと考えています。大澤 隆夫
一般財団法人音楽の力による復興センター・東北代表理事
公益財団法人仙台フィルハーモニー管弦楽団参与