お知らせ

閖上会「ございん!コンサート」へ

2017.5.18

東日本大震災の津波で壊滅した名取市閖上地区。6年が過ぎて戸建ての災害公営住宅ができ、新たな生活を始めた人たちがいます。また、新しく小中一貫校や大規模な集合住宅の建設も着実に進んでいいて、訪れるたびに風景がどんどん変わっています。
名取市のみなし仮設と災害公営住宅にお住まいの人びとを支援する名取市サポートセンターどっと.なとりでは名取市内外の数か所で交流サロンを開催しています。今日はその中でも閖上の人が集う「閖上会」に復興コンサートをお届けしました。
題して「ございん!コンサート」です。「ございん」とは「どうぞいらっしゃい」の意味で、多くの人に来ていただきたいとの気持ちを込めました。
会場の閖上公民館は木造の2階建てで、吹き抜けの部屋には明るい光が差して、とても気持ちの良い造りです。玄関にはこの地域特産のカーネーションが飾られていました。
ここには寄付された年代物のアップライトピアノがあるとのことなので、今日はピアノとヴァイオリンのアンサンブルをコーディネートしました。出演はヴァイオリン叶千春さんとピアノ菅野明子さんです。会場にはおよそ30名の参加者が集まりました。
オープニングはエルガー『愛の挨拶』でした。弦の響きがやわらかく空間に広がって、温かみのある音色に聞こえます。千春さんは「木でできた会場と弦楽器は同じ木造なので相性が良いんですよ。ここもいい音がするので弾いていて嬉しくなります」と言いました。
プログラム前半では有名なクラシック曲がいくつか演奏されました。菅野さんの独奏によるショパン『プレリュード第9番』をみなさんうっとりと聴いていましたが、「某胃腸薬のCMで流れてますよね」との説明に、お客さんは「あ~そういえば」と笑って大きく頷いていました。
モンティ『チャルダッシュ』の速弾きには終わった瞬間に「ほ~!!」と客席から声が上がって喝采が沸きました。
ここで千春さんがヴァイオリンの素材について、「動物のある部分を使っているのですが、何かわかりますか?」と問うと、客席から「えっ?動物?」「ホルモン?」と声が聞こえてきました。

後半は唱歌やテレビドラマ主題歌など、日本の歌を特集したラインナップで、唱歌の『故郷』を一緒に歌っていただきました。
かつての町が壊滅したこの地域にこの歌はもしかするとつらいものなのではないかと不安もありましたが、どの方も朗らかに歌ってくださいました。その歌声の明るさに、時間の経過とこの町の人びとの気持ちも新しい段階に入ったことを感じました。歌い終わると「いいねえ!」と満足げに言うおじさまがいてこちらも安心しました。
千春さんと菅野さんの親しみやすいお話しぶり、そして心のこもった選曲と演奏でお客さんは心ゆくまでコンサートをたのしんでくださった様子です。最後には「演奏家のお二人に御礼をしたいです」と、この町に伝わる民謡「閖上大漁節」を全員で歌ってくださいました。力強い歌声と手拍子ですごい盛り上がりでした。古今東西の音楽を通じておこなわれる観客と演奏家双方の交歓!これを愉快と言わずして何と言いましょう。
終演後は演奏家も交えてのお茶飲み会。あちこちでおしゃべりの花が咲いていました。海辺の人たちだからでしょうか、声が大きくてとても賑やかなひとときでした。
主催のどっと.なとりスタッフさんによれば「今日は、普段いらしてない方も来ていました」とのことで、ございんコンサートの役割は少し果たせたかなと思いました。
外に出ると、夏のような日差しの中でひばりが高く鳴いているのが聞こえてきます。見晴らす平野には工事の槌音が響いています。これからのこの町の未来が明るいものでありますようにと願います。