お知らせ

鳴瀬サロンへ

2017.12.9

「鳴瀬サロン」は、かつて東松島市鳴瀬地区にお住まいだった方を中心に構成された同郷サロンです。自主自立的に運営され、参加者は毎月1回のこの集まりを楽しみにしています。津波で暮らしを失い、仙台ほか他所の土地へ移転せざるを得なかった人びとの心のよりどころとも言えるでしょう。震災から6年9か月が経ち、メンバーの新しい生活も落ち着いてきた様子で、代表の高橋明さんは「参加者はだんだん少なくなっていますね」とおっしゃいましたが、それでも今日はおよそ20名の方が集まりました。
毎年この時季に復興コンサートをお届けするようになって4年になります。地元のよしみということで、東松島市鳴瀬地区出身のオペラ歌手の齋藤翠さんに毎回ご登場いただいていますが、翠さんとの年に一度の再会を心待ちにしている方がたくさんいます。
今回は翠さんのほかにバリトン野崎貴男さん(仙台オペラ協会)、ヴァイオリン浅野裕里香さん、ピアノ可沼美沙さんが出演しました。可沼さんには以前、みやぎの「花は咲く」合唱団や田子西市営住宅「うたカフェ」での伴奏を担当していただき、また復興コンサートにも数多くご参加いただきました。2016年春からの産休を経て、本日1年9か月ぶりの再登場となりました。またよろしくお願いします!
本日の「冬のコンサート」はオペラアリアを軸としてクラシック音楽をたっぷりと味わっていただこうというプログラム。ヴェルディ『乾杯の歌』で華々しく開演を告げました。翠さんと野崎さんの大迫力の歌声にみなさんは「うわぁ…」「すごいこと!」と圧倒されていました。

浅野さんがバッハ『G線上のアリア』について「これがG線という弦です」と、楽器のことも含めて解説をすると、みなさん興味深そうにしていました。演奏のときには目を閉じてしみじみと聴く様子が多くありました。モンティ『チャールダッシュ』では緩急自在の旋律の中に、一つの楽器とは思えないほどのさまざまな音色が次々に立ち現れて、勇ましい弾きぶりにやんやの喝采が沸きました。

野崎さんはモーツァルト『もう飛ぶまいぞこの蝶々』やビゼー『闘牛士の歌』を披露しました。会場の壁をびりびりと振動させるほどのすごい声量です。その堂々たる歌いぶりにみなさんは「はぁ~」と感嘆している様子で、立ち上がって「ブラボー!」を連呼するおじさまがいました。
翠さんはプッチーニ『私の名はミミ』『誰も寝てはならぬ』を歌いました。生の歌声だからこそ感じられる温度や気魄、表情が聴く人の心を打ちます。地元に戻った人、仙台に居を構えた人それぞれのこれからの暮らしを励ますような情熱こもった歌に大きな拍手が贈られました。

演奏家にとっても、親戚のおじさんおばさんに見守られているようなアットホームな雰囲気の中での演奏は楽しかったようです。終演後の後片付けをしていると、演奏中いちばん後ろの隅で黙って聴いていたおじさまがやってきて「ピアノの曲も聴きたかったねえ!」と朗らかな笑顔を見せて言いました。はい、次回はきっとそうします!
会場を出ると穏やかな日差しの中、清々しい青空が広がっていました。鳴瀬サロンのみなさん、どうぞ良いお歳をお迎えくださいね。