お知らせ

田子西「うたカフェ♪」_10月

2018.10.19

仙台市宮城野区にある復興公営住宅の田子西市営住宅では
町内会主催のサークル活動として、この住宅とその周辺にお住まいの方々の
交流の場「うたカフェ」を2014年10月から始めました。
昔なつかしい歌声喫茶にヒントを得て、みんなで歌い、
おいしいコーヒーとおしゃべりを楽しもうという趣向です。
復興センターでは仙台オペラ協会と協働し、音楽リーダーをコーディネートしています。
(仙台市「音楽の力による震災復興支援事業」)

ほんの2か月前の暑さは夢だったのかと思うほど、日中でも肌寒さを感じる日が増えてきた今日この頃。本日も早めに集会所に集まったみなさんは、喫茶ひこのマスター西垣さんが淹れてくれるコーヒー片手に、おしゃべりが弾んでいるようです。
今日も音楽リーダーは仙台オペラ協会のソプラノ松本康子さんと岩瀬りゅう子さん、ピアノ伴奏は富樫範子さんです。本日歌うのは、映画の主題歌から民謡までたっぷり5曲。歌詞カードを見ながら「あ~、この曲ね!」と嬉しそうにしている参加者のみなさんに、松本さんからは「生まれる前の曲ばかりで…今日は逆に、みなさんに教えてもらいながら歌います」との言葉。任せて!と言わんばかりに姿勢を正したみなさん、気合十分です。

さて最初の曲は、藤山一郎さんのヒット曲『影を慕いて』。うたカフェでは歌う前にその曲の歌詞を朗読していますが、いつもは曲にのせて何気なく歌っている歌詞を改めてじっくり読んでみると、はっとするような言葉に出会うことがあります。岩瀬さんは『影を慕いて』の歌詞を朗読しながら、「時雨(しぐれ)」や「振音(トレモロ)」といった美しい言葉を取り上げ、「すてきだなぁと思った言葉を、ひとつでも持ち帰ってくださいね」と語りました。
実際に歌ってみると、メロディは分かるものの後半の高音がやや辛く、歌い終わると同時に「高い~!難しい~!」と嘆く声がそこかしこから聞こえます。それに応えて岩瀬さんが「椅子からちょっとお尻を上げるように」「ウの母音は唇を突き出して」「右の爪先で踏ん張ってみて」といくつかアドバイス。何度か歌っていると喉も開いてくるのか、みなさん良いお声で歌いきることができました。

次の曲は映画「愛染かつら」の主題歌としてヒットした『旅の夜風』です。こちらもよくご存知の曲のようで、前奏のときから膝を叩いてリズムをとる方が。1曲目と同じく大きな声で4番まで歌い切ると、「なつかしいね~」という言葉があちこちで聞こえました。
3曲目に歌ったのは、森繁久彌さんが作詞作曲を手掛けた『知床旅情』。「森繁さんが歌っている様子が思い出されますね」という言葉にウンウンと頷く人がたくさんいました。この曲は加藤登紀子さんが歌ったものも有名ですが、森繁さんのものとは歌詞が少し違っているのだとか。比べてみると、細かい発見が色々とあるものですね。

 

次は雰囲気をがらりと変えて『九州炭坑節』を1番から4番まで歌います。「♪ 月が~出た出た 月が~出た~(ヨイヨイ)」の歌い出しはよく知られていますね。炭坑節というので男性の労働歌かと思いきや、続く歌詞を読んでみると女性目線の歌だと分かります。「もとの娘の十八に 返してくれたら別れます」など、歌詞だけ読むとまるで恨み節ですが、陽気なメロディにのせて歌うと雰囲気はガラリと変わってしまいます。
4番の「お札の枕で寝るより、あなたの腕に抱かれて暮らしたい」といった内容の歌詞に対しては、「お金のほうがいいよねぇ」と現実的かつ素直な感想が飛び出し、どっと笑いが起きました。
最後に歌った『証城寺の狸囃子』は本日最古、大正14年の曲です。もちろん全員生まれる前の曲ですが、みなさん大きな声で歌ってくれました。リズムに合わせて体を揺らしたり、「ぽんぽこぽんの ぽん」でお腹を叩いてみたりと楽しく歌い、曲が終わると自然と拍手が沸きました。

 

本日歌った5曲は、一見するとばらばらのテーマの曲のようですが、全て歌詞に「月」が入っているという共通点がありました。締めのミニコンサートの曲も、同じく「月」が登場する曲ばかりです。
まず松本さんと岩瀬さんのお二人で歌ってくれたのは『月夜のベンチ』。アンパンマンの生みの親として知られる やなせたかしさんによる、何ともやさしい歌詞が素敵な曲です。
続いて松本さんが「とても有名な曲なので…」と曲名を言わずに歌い出したのは、劇団四季のミュージカル「キャッツ」より『メモリー』。松本さんの情感あふれる歌声に、目を閉じて聴き入っている人が何人もいました。
「月」シリーズは岩瀬さんが歌う『月見草』で締めくくられました。文部省唱歌だったというこの曲の歌詞も味わい深いもので、美しい日本語が染み入ってくるような歌でした。

 

帰り際、「今日も楽しかった~」「これが本当に楽しみなの」と声をかけてくれた方がいました。色々な歌をみんなで歌って、聴いて、そしてコーヒーを飲みながらおしゃべりして、というささやかな時間が、みなさんの楽しみになっているなら幸いです。
気付けば10月も下旬、今年もあと2ヶ月と少しになりました。東北の秋はあっという間に過ぎて、すぐに冬がやってきます。風邪などひかないよう、元気にお過ごしくださいね。