お知らせ

メモリアルコンサートvol.20

2018.11.11

音楽の力による復興センター・東北では今年度も
奇数月11日に「メモリアルコンサート」を企画制作しています。
東日本大震災の月命日にあたる日、市民のみなさんとともに、
音楽を通じてあの日に思いを馳せる場を設けたいと考えました。
(主催=仙台市/共催=せんだい3.11メモリアル交流館)

震災から7年8か月。メモリアルコンサートは今年度初めて、日曜日に開催しました。よく晴れて暖かく、まさに行楽日和といった日でしたが、会場には40人を超える方が集まってくれました。
本日の出演者、メゾソプラノ牛坂洋美さん、ピアノ石川祐介さんのお二人は仙台市出身です。牛坂さんは現在イタリアのミラノにお住まいですが、年に1~2度、ご実家のある仙台に戻られるそう。実は午前中に、仙台市太白区のあすと長町でのコンサートを終えてから交流館までいらしたのですが、全く疲れを感じさせない様子でメモリアルコンサートの準備を進めていました。ピアノの石川さんは仙台にお住まいで、復興コンサートにも何度もご出演いただいています。

今日のコンサートは『荒城の月』で始まりました。その後も『埴生の宿』『赤いサラファン』といった懐かしい歌が続き、お客さんはあっという間にお二人が紡ぐ音の世界に引き込まれていきます。目を閉じてじっと聴き入る人、体をゆっくりと揺らしながら聴く人など、思い思いに音楽を楽しんでいました。

 

 

石川さんがソロで演奏したのは、ベートーヴェン作曲『エリーゼのために』。
演奏前に石川さんから「個人的にアンケートをとった結果、ある年代以上の方の<あこがれの曲>第一位になった曲です」と紹介がありましたが、確かに多くの女性がうっとりとした表情で耳を傾けていました。

コンサートの中盤では、会場のみなさんと一緒に『故郷』を歌いました。恥ずかしさからか、最初は控えめだった歌声も、牛坂さんのリードと石川さんのピアノの盛り上がりにつられるように大きくなり、すてきなハーモニーを響かせていました。

 

 

曲の間に、お二人はそれぞれ震災が起きた当時のお話をしてくれました。
牛坂さんはご主人の実家があるコソボ共和国にいて、イタリアのお友達からの連絡で震災を知ったそうです。繰り返し報道される津波の映像を見ながら、遠く離れた外国で何もできない歯がゆさを感じていた、と語ってくれました。
石川さんは東京から仙台に車で戻る途中、高速道路を走行中に地震が起きました。ライフラインの復旧や生活物資の供給が最優先されるなかで「今は音楽なんて必要ないんだ」と感じていましたが、やがて東京の音楽家仲間に誘われてチャリティ・コンサートに出演し、その収益金を寄付する活動を始めたそうです。
震災が起きてからこれまで、時には無力感を覚えながらもそれぞれのスタイルで被災地に心を寄せ続けているお二人の話を、会場のみなさんは真剣に聴いていました。その後、コンサートの終盤には『アメイジング・グレイス』が披露され、東北を想うお二人の心がこめられた演奏に、しきりに目元を拭っている人の姿もありました。

 

 

日本の唱歌あり、イタリアのカンツォーネのメドレーあり、と大ボリュームでお送りしたプログラムの最後は、オペラ「カルメン」より『ハバネラ』です。前奏が始まると牛坂さんの表情が変わり、情熱的な旋律にのせて恋の気まぐれを歌い上げます。そして”カルメン”は歌いながら男性のお客さんの手を取ったり、肩を組んだりとアプローチ。恥ずかしがる人もいれば、両手を広げて受け入れる人もいました。大盛り上がりのうちに曲が終わると、拍手とともに「ブラボー!」の声をいただきました。
鳴りやまない拍手に応え、アンコールとして歌ってくれたのは『子もりうた』でした。牛坂さんの表情が妖艶な女性”カルメン”から、子どもに寝物語を聞かせるお母さんへと一変。その優しい歌声に幼い頃を思い出す人も多かったのでしょうか、会場のみなさんはとてもやわらかい表情で聴き入り、曲が終わると暖かい拍手が送られました。

ちょうどコンサートが終わった頃、せんだい3.11メモリアル交流館に盛岡からの見学者約100名が訪れ、スタッフの方から津波被害や復興の現状について説明を受けていました。ご家族で参加されている方がたくさんいて、お子さんたちも真剣なまなざしで説明を聞いていました。