お知らせ

若林西「うたっこ会」ひな祭り

2020.2.26

仙台市若林区の復興公営住宅で2015年9月から「うたっこ会」を始めました。
季節に一度、みんなで歌うことを楽しむ会です。
復興センターでは音楽リーダーをコーディネートし、
この住宅の町内会〈せせらぎ会〉と協働しています。

今日は「うたっこ会」の年に一度のひな祭りコンサートです。集会所には例年通り立派なひな人形が飾られています。また、その脇には住民のみなさんが手作りしたちりめん細工や和紙で作ったひな人形や干支の飾りがたくさん並べられていました。早めに会場に集まった人は間近で見ながら「これ◯◯さんが作ったの?」「細かいのに綺麗だね」とその出来栄えに感心していました。
色とりどりのひな飾りのおかげで、お部屋の雰囲気はいつにも増して華やかです。そこにメゾソプラノ後藤優子さんとピアノ田村聡子さんが花柄のドレス姿で登場したので、本当にぱっと花が咲いたような彩りが加わりました。お二人の素敵な衣装に、会場からも歓声と拍手が沸きました。

本日はコンサートと銘打ってはおりますが、せっかくの「うたっこ会」ですから、まずはみんなで歌うコーナーから始めました。毎年恒例となっている『うれしいひなまつり』、立派なひな人形を前にして歌うとよりいっそう雰囲気が出ますね。
『北上夜曲』はリクエストがあった曲です。北上川のほとりで初恋の人と過ごした思い出をしみじみと歌うこの曲に、ご自身の初恋を思い出した方もいらしたでしょうか。午前中は声が出にくいので、みなさん高音を歌うのが少し辛そうな様子。それを見た後藤さんに「眉を上げた状態でもう一度歌ってみましょう!」と促されて再チャレンジしてみると、1回目とは声の大きさが全然違っていました。その勢いで歌った『青春の城下町』でもよいお声が出ていましたよ。

 

 

さて、ここからはいよいよ「ひな祭りコンサート」をお届けします。
最初の曲は、こちらもリクエストがあった『千曲川旅情の歌(小諸なる古城のほとり)』。仙台にもゆかりのある詩人・島崎藤村の詩に、『春よ来い』などで知られる弘田龍太郎が曲をつけた歌曲作品です。旅人の旅愁を歌ったこの曲は美しくも物悲しい旋律の前奏から始まります。田村さんがその前奏を弾き始めると一気に曲の世界観に引き込まれ、みなさんじっと聴き入っていました。
続いても川の曲ということで、ご当地ソング『青葉城恋唄』が登場。この曲に出てくる「あの人はもういない」という歌詞について、後藤さんは歌う前に「少し悲しい歌詞ですが、私はその人が永遠に心の中にいてくれると思って歌います」とお話ししてくれました。最後は田村さんもコーラスに加わって、木漏れ日や川面のきらめきが目に浮かぶような演奏に耳を傾けた参加者からは、演奏終了後、とても優しい拍手が起こりました。

 

 

そのあとは美空ひばりさんが生前最後に発表したシングル曲『川の流れのように』と、昨年”AI美空ひばり”の歌唱で話題になった『あれから』が披露されました。どちらも人々の心にそっと寄り添い、励まし、力を与えてくれるような曲です。ある女性は『あれから』の演奏が終わるなり下を向き、しきりに涙を拭いていました。
『知りたくないの』では、前半を男性、後半を女性のキーで歌ってくれたのですが、同じ曲の中でも音域が変わると受ける印象も全く違ってきます。男性のキーで歌っているときは「昔の恋など忘れさせてあげるよ」とでもいうような力強さや頼もしさを感じますが、女性のキーで歌うと印象は一転して、過去を振り返る恋人の袖を引いているようないじらしさが感じられます。後藤さんはこれまでも男性歌手の曲でもキーを上げずに歌ってくれたことがありますが、改めてその音域の広さにみなさん驚いていたようでした。
プログラムの最後の曲は『ウィーン わが夢の街』でした。「ここはウィーンです!」と朗らかに言う後藤さんの背後には日本のひな人形が・・・。「・・・ウィーンなんですよ?」とおひな様に念を押す後藤さんの様子に、みなさん思わず吹き出してしまいます。ウィーンという街へのノスタルジックな賛美を歌い上げる曲はとても華やかで、後藤さんもワルツを踊るようにステップを踏みながら優雅に歌っていました。石畳が続くヨーロッパの街並みを想像しながら聴いていると、ひな人形もビスク・ドールに見えてくる・・・ような気がしました。

その後は町内会長さんの音頭で始まったアンコールの声に応えて演奏されたのは『銀座カンカン娘』。陽気なメロディに観客も手拍子で参加し、”♪これが~ 銀座のカンカン娘~”と声を合わせました。同名の映画を何度も観たという男性を始め、みなさんの楽しそうな顔が印象的でした。
これで本当に終演と思いきや、まさかのアンコール2が。すると後藤さんと田村さんは「みなさんに希望の光がさすように祈りを込めて」と、『夜明けのうた』を演奏してくれました。その言葉の通り、夜明けの光のように未来への希望が感じられる歌を、みなさん音楽に身を任せるようにして聴き入っていました。

コンサート終演後には昼食会が開かれました。ちらし寿司や桜茶、町内会の方が手作りしたつぼみ菜のからし合えやデザートなどが並び、食事で一足早い春を楽しみました。
そんな席で『北上夜曲』をリクエストしていたという女性が「今日聴けてとっても嬉しかった」とお話してくれました。岩手県出身だというその方は小さい頃から北上川の川辺で遊んでいたそうで、「あの歌はまさに私の青春そのままだもの」と懐かしそうに目を細めていました。それを聞いた町内会長さんも「好きな歌を聴くと、それを聴いていたときの気持ちがよみがえってくるものね」と語り、みなさん頷いていました。
今日もご参加いただいたみなさんから歌いたい曲・聴きたい曲を教えていただきました。音楽リーダーのお二人もできるだけ応えられるよう頑張ってくださるので、来年度の「うたっこ会」にも足を運んでくださいね。