お知らせ

田子西「うたカフェ♪」_7月

2020.7.17

仙台市宮城野区にある復興公営住宅の田子西市営住宅では
町内会主催のサークル活動として、この住宅とその周辺にお住まいの方々の
交流の場「うたカフェ」を2014年10月から始めました。
昔なつかしい歌声喫茶にヒントを得て、みんなで歌い、
おいしいコーヒーとおしゃべりを楽しもうという趣向です。
復興センターでは仙台オペラ協会と協働し、音楽リーダーをコーディネートしています。
(仙台市「音楽の力による震災復興支援事業」)

2月からすっかりご無沙汰していた田子西市営住宅の「うたカフェ」。ようやく再開が実現して足を運んだ集会所の入り口には、綺麗なアジサイの切り花が並んでいました。何でも敷地内で咲いたものを剪定し、ほしい方にお配りしているんだとか。じめじめとうっとうしい季節ですが、こんもりと咲くアジサイを楽しめるのは嬉しいですね。

 

集会所の中に入ってみると、演奏家と参加者の間を仕切るビニールカーテンが下がっていました。園芸用の支柱を使って作った、町内会さんお手製の品です。こちらの集会所は天井がとても高いので、設置は大変だったことでしょう。他にも非接触型体温計や消毒用アルコールなど、感染防止対策をしっかりご準備いただいていました。
今日は参加者を市営住宅の方に限定させていただき、そのぶん並べる椅子の数を減らして座席間の距離を確保。玄関や窓も開けて、部屋の換気に気を配りながら参加者が集まってくるのを待ちました。
スタート時間の30分前になると、次々に人がやってきました。参加者には入口で検温と手指の消毒をしてもらい、お名前と連絡先をご記入いただくことにしています。色々とご不便をおかけしてしまいますが、みなさん快く協力してくれました。もちろん全員マスク着用です。町内会長さんからも「しっかりと対策をとりながら、できることはこれまで通りやっていきたい」と挨拶がありました。

うたカフェの再開を心待ちにしていたのは参加者だけではありません。音楽リーダーを務める仙台オペラ協会のソプラノ松本康子さんと岩瀬りゅう子さん、そしてピアノの富樫範子さんも同じです。
ビニールカーテンを間に挟んで登場した松本さんは、「第二のふるさとに帰ってきました」とご挨拶。参加者からは大きな拍手が起こりました。「今日は私たちから歌のプレゼントをたくさん持ってきました」という松本さんが最初に歌ってくれたのは『サマータイム』。外出等の自粛期間が続き、生の音楽に触れるのも久しぶりだった方も多かったのでしょう。歌が始まったとたん、参加者の顔がぱっと明るくなりました。

続くみんなで歌うコーナーで登場したのは、梅雨の時期にぴったりの『あめふり』と『あめふりくまのこ』。ほとんどの人が知っている曲だけに、普通に歌うだけでは終わりません。富樫さんが弾く『あめふり』の伴奏を聴きながら『あめふりくまのこ』を歌ったり、『あめふりくまのこ』のメロディで『あめふり』の歌詞を歌ったり・・・。元々の曲の歌詞とメロディがしっかり身についているだけに、それが入れ替わるとけっこう混乱しますね。よき頭の体操になりました。
他にも『茶摘』を手拍子付きで歌ったり、梅雨明けを待ちわびる気持ちを『夏は来ぬ』にのせて歌ったりと、みなさん気持ちよさそうに声を出していました。そんな参加者の様子に「みなさんと一緒に歌うのが楽しくてしかたがないです」と笑顔を見せた松本さん。「楽しいのでもう1回歌います!」と『夏は来ぬ』のアンコールを要求し、参加者も笑顔で応じました。

 

 

次に岩瀬さんが『ありがとうのうた』と『恋はやさし野辺の花よ』の2曲を披露。マスク越しとは思えない豊かな響きの歌声に、みなさんうっとりと聴き入っています。『ありがとうのうた』を歌い終えた岩瀬さんの「早くマスクをしないで、一緒に元気に歌いたいですね」という言葉に、誰もが頷いていました。
ここで富樫さんもソロで1曲。「自分が歌うのも久しぶりなら、ピアノの生音を聴いたのも久しぶり。リハーサルで富樫さんのピアノを聴いて、心が潤いました」という松本さんの言葉を受けた富樫さんが弾いてくれたのは、ベートーヴェンの生誕250周年の年にちなみ、『ベートーヴェンからのプレゼント~もしもピアノが弾けたなら~』。『悲愴』から『エリーゼのために』とベートーヴェンの代表曲に耳を傾けていたら、いつのまにか『もしもピアノが弾けたなら』のメロディに繋がる面白いアレンジの曲です。何でも『逢えてよかったね』を作曲した小原孝さんが編曲したものだとか。みなさん曲の変わり目になると「おっ」という顔をして、楽しそうに聴いていました。

 

 

さて、富樫さんがこの曲を選んだのは、ベートーヴェンのメモリアルイヤーという以外にも理由がありました。次に歌う『心の中にきらめいて』の中に、『悲愴』の第2楽章のメロディが使われているからです。比較的新しい歌なので曲自体は知らない方もいましたが、松本さんがその部分を歌ってみるとなるほど、先程ピアノで弾いたメロディと同じです。
今日のうたカフェにこの曲を選んだ松本さん、実はこの数カ月、自粛疲れで毎日を欝々と過ごしていたそうです。そんな中で舞い込んだうたカフェ再開の知らせに、何を歌おうか岩瀬さんにも相談しながら大喜びで曲を選んでいたんだとか。その際に『心の中にきらめいて』の【心を込めて歌おうよ いつの日も子の歌を いつまでも】という歌詞に感動し、田子西のみんなと歌いたいと思ったんだそうです。歌うことはおろか、誰かとお話しすることもはばかるような不自由な生活に、誰もが大きなストレスを感じていたことでしょう。その思いに応えるように、慣れない曲ながらみなさん大きな声で歌ってくれました。
久しぶりのうたカフェ、締めくくりは松本さんと岩瀬さんがそれぞれとっておきの曲を披露してくれました。
朝ドラが毎日の楽しみだという松本さんが歌ったのは『星影のエール』。「この曲でみなさんにエールを送りたいと思います」という言葉とともに歌われた曲を、膝を叩いてリズムをとりながら聴いている人が何人もいました。
そして最後は岩瀬さんによる『アメイジング・グレイス』。様々な祈りの場面で歌われることが多い曲だけに、現在の状況の収束を切望する心に深く響きます。優しく包み込んでくれるようなその歌声に、ある人は祈るように両手を組んで聴き入っていました。

 

 

たくさんの笑顔と拍手で幕を閉じたうたカフェですが、ひとつ物足りないことがありました。「喫茶ひこ」のマスター西垣信彦さんが淹れてくれる、おいしいコーヒーです。参加者にとって西垣さんのコーヒーはうたカフェの大きな楽しみのひとつだったのですが、感染予防のために飲食物の提供は中止せざるをえなかったのです。
けれど今日の会場にはいつもと変わらず西垣さんの姿がありました。会場でコーヒーの提供ができないかわりに、おうちで楽しんでもらおうとドリップバックのお土産をたくさん持ってきてくれたのです。これにはみなさん大喜び!「家に帰ったらさっそく飲みます」とウキウキした様子で帰っていきました。

今日のうたカフェは、たくさんの人のご協力のおかげで実現することができました。様々なことが制限されるこの状況下では全てを今までどおりに行うことはできませんが、色々と工夫をしながらみんなで音楽を楽しむ場を作っていきたいと思います。