お知らせ

田子西第二「歌う♪こだまの会」7月

2020.7.21

復興センターでは、仙台市宮城野区の田子西第二市営住宅で
2018年10月から「歌う♪こだまの会」を開催しています。

2月に立派なひな人形が飾られた集会所でお会いしてから早五ヵ月。なかなか明けない梅雨に気持ちもどんよりとするこの時期に、ようやく「歌う♪こだまの会」を再開できる運びとなりました。集会所の入り口には疫病退散で話題になった【アマビエ】の絵が貼られ、アマビエをかたどった七夕飾りも飾られていました。本当に、一日も早く事態が収束することを祈るばかりです。

歌の会を再開するにあたり、町内会さんが歌い手と参加者の間に設置するビニールの仕切りを用意してくれました。ハンガーラックとビニール袋で作ったお手製の仕切りに、「そのままじゃ華がないから」と住民の方がお花を飾り付けてくれました。淡い色合いのミニ花束がとっても可愛らしかったです。
さらに床には座席位置が目貼りされ、いつもより距離を確保した状態で椅子が並んでいました。椅子はもちろん、床もハイターで消毒してくださったそうです。非接触型の体温計や消毒用アルコールも準備されていて、久しぶりの歌の会を安全に実施できるように手を尽くしてくださっていました。本当にありがとうございます。
音楽リーダーを務める仙台オペラ協会のソプラノ大河原真歩さんと、ピアノの稲垣達也さんも五カ月ぶりに会場を訪れて嬉しそうなご様子。会場を準備してくれた町内会の方と「お久しぶりです」「お元気そうでよかった!」と挨拶を交わしていました。
今回のコロナ騒ぎで、稲垣さんは予定していたコンサートが11月分まで全てキャンセルになってしまったそうです。いつも会場に持参いただいている電子ピアノも、2月のこだまの会で使用して以来ケースに入ったままだったとか。久しぶりの出番となったそのピアノで、リハーサルの間中たくさんの曲を弾いてくれました。その場に同席していた町内会の方々も、生の演奏を聴くのは久しぶりです。CDや画面越しに聴く音楽にはない、音が空気を震わせる感覚に、みなさん笑顔を見せていました。

今日の「歌う♪こだまの会」は参加人数を限定したのでいつもよりこじんまりとした感じにはなりましたが、それでも多くの参加者が集まってくれました。最前列に座ったある女性は「私ね、今日すごく楽しみにしてたの」と待ちきれない様子でお話してくれました。もちろん演奏家のお二人も気持ちは同じ。スタッフがお声がけする前に控室から出てきて、そわそわと廊下で出番を待ちわびていました。
「お久しぶりです」と会場入りした大河原さんと稲垣さんを、大きな拍手が迎えます。「またみなさんとお会いできて嬉しいです」と挨拶する大河原さんに、参加者も笑顔で応えていました。
まずはストレッチで体をほぐします。外出もままならない時期が続いて体を動かす機会が減ったので、ゆっくり首や股関節を回して血の巡りを良くしました。
そして2月のこだまの会で教わった【歌うときの大事なポイント】もおさらい。表情・姿勢・呼吸の3つに気を付けることを再確認しました。特にここ数カ月は人とおしゃべりすることもはばかられることが多かったので、表情筋が硬くなっている人も多いはず。大河原さんは「頬を親指で押したりして、ほぐしてあげてくださいね」と教えてくれました。

さて、準備が整ったらさっそくみんなで歌うコーナーです。
最初の曲は『夏の思い出』。まず大河原さんがお手本として1番を歌ってくれましたが、多くの方が一緒に口ずさんでいました。今年はいまだにすっきりしない天気が続いていますが、この曲を聴くと晴れ渡った夏の空が思い浮かびますね。歌うときのポイントとして、大河原さんからH・K・Sの発音に注意するようアドバイスがありました。この3つの発音を歌うときは、しっかり準備しておかないと子音が抜けてしまいがちなんだそうです。大河原さんの「ちゃんと準備して発音しないと、”やさしい影”が”やさしいハゲ”に聴こえてしまいます!」という分かりやすくも愉快な具体例に、参加者からは大きな笑いが起こりました。
2曲目に歌ったのは大正6年にできた滋賀県のご当地ソングのひとつ『琵琶湖周航の歌』。全部で6番までありますが、今日は3番まで歌います。みなさん6/8拍子のゆったりとしたリズムに合わせて体を揺らしながら、気持ちよさそうに声を出していました。その伸びやかな歌声を聴いていた大河原さんが「みんなで歌えるっていいですね」と語り掛けると、みなさん何度も頷いていました。

続いては音楽リーダーによるミニコンサートの時間です。
最初の曲は『涙そうそう』です。沖縄民謡を思わせるノスタルジックなメロディと優しい歌詞が、心にじんわりとしみこむような曲です。何人もの方が一緒に口ずさんでくれて、歌い終えた大河原さんは「みなさんが一緒に歌ってくれて泣きそうでした」と感動した様子でした。
続いては稲垣さんのソロで、ジャズのスタンダード・ナンバー『スターダスト』と、「なかなか梅雨が明けませんが、こんなときだからこそ元気な曲でスカッといきたいと思います」と稲垣さん作曲の『天気雨』を弾いてくれました。『天気雨』は稲垣さんが紹介した通りアップテンポでさわやかなメロディの曲で、思わず体でリズムをとってしまいます。梅雨が明ければ暑さが厳しくなるには分かっていますが、こういった曲を聴いているとやはり夏が待ち遠しい気持ちになりますね。さらに大きな拍手とアンコールに応えてもう1曲、と弾いてくれたのは『NOTES OF TREES   樹の音』。こちらも稲垣さんが作曲した曲で、木漏れ日が射しこむ木立ちや巨木が立ち並ぶ雄大な森を思わせるメロディを、目を閉じてじっくりと味わう人が何人もいました。
最後は衣装替えをした大河原さんが再登場し、「ウエストサイドストーリー」から『Tonight』を披露してくれました。本来は男女のデュエットソングですが、今日は男性のパートを稲垣さんがピアノで弾いたり大河原さんが歌ったりする特別バージョンでのお届けです。ミュージカルのお話は「ロミオとジュリエット」に着想を得た悲しい恋の物語ですが、この曲には恋に落ちた男女の喜びがあふれています。部屋中に響く歌声を全身で感じることができ、生音の演奏の素晴らしさを改めて実感しました。

五ヵ月ぶりとなった「歌う♪こだまの会」も楽しく実施することができました。今日を楽しみにしてくれていたというご婦人をはじめ、みなさんニコニコしながら会場を後にしていきました。そのあとは町内会のみなさんが会場や備品を徹底的に消毒。大変な作業ですが、みなさんテキパキと作業をされていました。
大河原さんも稲垣さんも、人前で演奏を聴いてもらうのは久しぶりのことでした。終始とても楽しそうに演奏されていた稲垣さんは「聴いてくれる人がいると、こちらもパワーをもらえます」とお話してくれました。また、大河原さんも「ここで歌って元気になった人が、次は周りの人を元気にしてくれたらいいですね」と笑顔で語りました。今後もこうした機会を増やして、音楽を演奏する人も聴く人も、双方が元気になれる場をつくっていければと思います。