お知らせ

メモリアルコンサートvol.27

2020.9.11

音楽の力による復興センター・東北では
東日本大震災の月命日にあたる11日に、市民のみなさんとともに
音楽を通じてあの日に思いを馳せる場を設けたいと考え、
「メモリアルコンサート」を企画制作しています。
(主催=仙台市/協力=せんだい3.11メモリアル交流館

前回から半年以上あいてしとまいましたが、震災の月命日に開催しているメモリアルコンサートもようやく再開できる運びとなりました。
安全に開催するために、座席数の制限や事前予約制といった感染症対策を実施。一回に聴ける人数が少なくなったぶん、一日に2回開催することにしました。また、ご来場いただいたお客様にも手指の消毒やマスク着用を徹底していただくなど、ご協力いただきました。

本日ご出演いただいた門脇麻美さんは、メモリアル交流館で初めて開催したメモリアルコンサートに出演いただいたお一人。2016年のそのときは歌とフルートのトリオでしたが、今日はピアノのソロコンサートです。
拍手の中、赤いドレスを着た門脇さんが『上を向いて歩こう』を、なんと鍵盤ハーモニカで演奏しながら登場しました。意外な楽器の登場にお客様も驚いた様子です。

こちらは後のお楽しみで、と鍵盤ハーモニカは脇に置き、ピアノの前に座った門脇さん。ピアノで演奏する最初の曲はファジル・サイというトルコ出身のピアニスト兼作曲家がジャズ風にアレンジした『トルコ行進曲』でした。聴き慣れたメロディですが、そこには確かにジャズの要素が入っています。誰でも知っているような曲でもアレンジによって印象が変わるのも面白いですね。
続いて演奏されたのは「アルゼンチン舞曲集Op.2」より『粋な娘の踊り』。今年の2月16日に開催したソロリサイタルで弾いた曲だそうです。すでに感染症拡大の影響が出ていた時期だったので本当にギリギリのタイミングでの開催でした。門脇さんはこの曲について、普通に弾くと不協和音になってしまう音を組み合わせた独特の和音が使われていると解説してくれました。確かに聴いていると「おや?」と感じる和音があるのですが、それが嫌なものではなく不思議と耳に残ります。会場のみなさんは、どこか神秘的にすら感じるそのメロディにすっかり聴き入っていました。

門脇さんには2011年4月という復興コンサートの最初期からご出演いただいています。その頃は駅前ビルのアトリウムやアーケード街の店頭で演奏していたのですが、それから数年経ったある日、その頃のコンサートを聴いていた方から「あのとき演奏していましたよね」声をかけられたそうです。覚えていてくれたことに”目に見えないつながり”を感じたという門脇さんは、いつもどおりの明日が来ること、誰かと出会えることが決して当たり前のことではなくなった今、そのかけがえのなさを改めて実感しているそうです。そんな門脇さんは、今日という日に出会えたみなさんに思いを込めて、人と人との縁を歌う中島みゆきさんの『糸』を演奏してくれました。みんなで声を合わせて歌うことはできませんでしたが、マスクの下で小さく口ずさむ声がそこここから聴こえました。

さて、ここで満を持して鍵盤ハーモニカが再登場しました。自粛期間中にたまたま鍵盤ハーモニカを演奏する動画を見たという門脇さんは、その演奏にすっかり魅了されてしまったというのです。小学生が演奏しているイメージが強い楽器ですが、動画内ではギターのように構えて弾いたり両手を使って弾いたりしていて、鍵盤ハーモニカの概念が変わってしまうような一流のパフォーマンスだったのだとか。
今回門脇さんが演奏するのは「大人のピアニカ」として販売されている鍵盤ハーモニカですが、何と門脇さんご自身が小学生の頃に使っていた鍵盤ハーモニカも用意していました。比べてると大人のピアニカのほうが少し長いのですが、これは鍵の数の違いだそうです(小学校のものは32、大人のピアニカは37鍵)。他にも材質によっても音が変わり、木製のものは木のやわらかな音色が特徴だとか。鍵盤ハーモニカの奥深い魅力を熱く語る門脇さんの話を、会場のみなさんも興味津々で聴いていました。
そんな鍵盤ハーモニカを使って演奏するのは『情熱大陸』。門脇さんご自身のピアノ伴奏をCDで再生し、そこに鍵盤ハーモニカの音を合わせて演奏しました。小さな鍵盤の上を走る指が奏でる演奏は、確かに小学校の学芸会イメージが吹き飛ぶようなものです。アップテンポな曲が終わると、会場からは大きな拍手が沸き起こりました。
子どもたちにも鍵盤ハーモニカの魅力を伝えたいという門脇さん、今後の目標は鍵盤ハーモニカの両手弾きと、ピアノの生演奏と合わせることだそうです。その演奏もぜひ聴いてみたいですね。
アンコールに応えて演奏してくれたのはピアソラの『オブリビオン』。門脇さんは日本語で『忘却』というタイトルのこの曲に、震災を忘れないこと、そして震災を知らない世代にも伝えていきたいという思いを込めたそうです。その静かな旋律の、最後の音の余韻がすぅっと消えると、それまでじっと耳を傾けていたお客様からあたたかい拍手が起こりました。

コロナ禍で思うような演奏活動ができなくなり、動画配信などにも挑戦した門脇さんですが、聴いている人の生の反応が得られない難しさがあったそうです。「今日は目の前のみなさんの笑顔や拍手にエネルギーをもらいました」と嬉しそうに語った門脇さんの「やっぱり生のコンサートっていいですね」という言葉に、会場のみなさんも大きく頷いていました。
終演後にいただいたメッセージでも、「久しぶりに生の演奏を聴きました」という言葉をたくさんいただきました。今までどおりにはできないこともたくさんありますが、そんな中でも様々な工夫を凝らしながら、これから少しずつでもこうした機会を増やしていきたいと思います。