お知らせ

メモリアルコンサートvol.28

2020.10.11

音楽の力による復興センター・東北では
東日本大震災の月命日にあたる11日に、市民のみなさんとともに
音楽を通じてあの日に思いを馳せる場を設けたいと考え、
「メモリアルコンサート」を企画制作しています。
(主催=仙台市/協力=せんだい3.11メモリアル交流館)

 

小雨模様の日曜日、本日のメモリアルコンサートは仙台在住のピアニスト星簇(ほしむれ)亜実さんが演奏しました。星簇さんは東日本大震災直後の4月から仙台フィル楽団員とともに復興コンサート活動に参加し、以来、仙台市内だけでなく石巻や岩手県大船渡市などにも赴いて、数多くの演奏を届けてきました。
星簇さんが淡い黄色のドレスで登場すると、会場の空気がふわっと明るくなったようでした。コンサートの冒頭はモーツァルトやショパンのピアノ曲が披露されました。

そして、「ここでみなさんと私の緊張をほぐすために、ちょっと体を動かしましょうか」と『幸せなら手をたたこう』を弾き始めました。お客さんは「パン!パン!」と合いの手の手拍子を入れます。
星簇さんが重低音のスローモーションで弾いたり、高音の高速回転で弾いたりするのに合わせ、お客さんは手拍子のニュアンスを変えて応じていました。中でも子供たちが楽しそうに、得意そうにしていましたね。

コンサート中盤で、星簇さんは震災当時の思い出を語りました。
「あのとき、音楽はとても無力だと思いました」
しかし、復興コンサート活動を重ねる中で、ある人から「今日演奏を聴いて、初めて泣くことができました。ありがとう」と言われたことから、音楽が持つ力を確信して演奏するようになったそうです。

「近頃も胸が痛むような出来事が多くありますが、生きていれば、いつかきっと愛が降りそそぐような日があると信じて、この曲を弾きます」と、小椋佳『愛燦燦』を演奏しました。ほろほろと涙をこぼす人の姿があちこちに見られました。曲のあいだじゅう、ずっと目元を拭っている方もいました。

続いては、「津波のことがあって『海は怖い』という気持ちもまだあるのですが、海が本来持っている色あざやかな世界を弾いてみます」と、ディズニー映画「リトルマーメイド」の『パート・オブ・ユア・ワールド』を披露しました。目の前に色とりどりの魚たちが現れて、すいすいと軽やかに泳ぎ回るような曲に身をまかせ、身体を揺らして楽しんでいる方が多くいました。
最後の曲はシューマン=リスト『献呈』でした。曲の終わりに『アヴェマリア』のフレーズが取り入れられているこの曲を、星簇さんはあの日への祈り、そして未来への祈りをこめて選んだのでしょう。目を閉じてしみじみと聴き入る方がいました。

終演後、お客さんから寄せられたアンケートには「心が清められた気がしました」「明日の生きる力をもらったようです」「震災で亡くなった友人を思って聴きました」など、たくさんのメッセージが書かれていました。日曜日ということで、普段より子供の参加が多かったのですが、「あの曲を弾いてみたいと思いました」とピアノを習っている子にとって良い刺激にもなったようです。 
震災後に生まれた子供たちに、震災の記憶をつなげてゆくこと――さまざまな方法がありますが、音楽もその役割を担う一つだと実感する日でした。