お知らせ

荒井東_「音楽サロン」3月

2021.3.16

仙台市若林区にある復興公営住宅である荒井東市営住宅町内会からの依頼で
2018年4月から音楽を楽しむ会をお届けしています。
(仙台市「音楽の力による震災復興支援事業」)

少し空気が温かくなった今日、荒井東市営住宅で今年度最後の「音楽サロン」を開催しました。
時節柄、今回も音楽リーダーのメゾソプラノ後藤優子さん・ピアニスト田村聡子さんによる演奏を聴くのがメインとなりますが、それでもせっかくだからといくつかはみんなで歌う曲も用意されています。良い声で歌うにはまず体の準備から!ということで、ウォーミングアップの体操と発声練習もしっかり行いました。
『あんたがたどこさ』で手遊びしたあと、みんなで歌ったのは『故郷』と『鐘の鳴る丘(とんがり帽子)』の2曲。どちらも音域が高めでしたが、”高音を歌うときは眉を上げる”という後藤さんからのアドバイスのおかげで、みなさんしっかりと声が出ていました。

 

 

2月~3月にかけてはバレンタインデーやホワイトデーなど愛のイベントが多かったのを受けて、ミニコンサートの1曲目はエリック・サティの『ジュ・トゥ・ヴー(あなたが大好き)』でした。CM等にも使われる楽曲なので、ご存知の方もいたのではないでしょうか。曲名の通り「大好き」という気持ちにあふれたロマンチックな曲に、みなさんうっとりと聴き入っていました。
春は別れの季節ということで、名曲『なごり雪』も登場。サビには田村さんもコーラスに参加し、しんみりとした別れの切なさを美しいハーモニーで歌い上げていました。
さらに田村さんはピアノのソロ演奏で『エトピリカ』も披露してくれました。曲名はアイヌ語で「くちばしが美しい鳥」を意味し、北海道に生息するウミスズメ科の海鳥のことを指すそうです。作曲した葉加瀬太郎さんが曲のイメージにぴったりだとつけたタイトルとのことですが、確かに晴れ渡った空に鳥たちが高く高く羽ばたいていくような、明るい希望を感じさせるメロディでした。

コンサート終盤、次に歌う曲が谷村新司さんの『群青』だと紹介されると、参加者から「お~!」と歓声が上がりました。というのも、常連さんにこの曲が大好きな男性がいらして、その方がこの曲をまた歌ってほしいと熱望していたのをみなさんご存知だったからです。当のご本人も曲名を聞くや大きな拍手をしていました。
男性歌手の曲なので、メゾソプラノの後藤さんにとってはずいぶん低い音域なのですが、原曲の雰囲気を大切にキーを変えずに歌ってくれました。大ファンの男性はもちろん、他のみなさんも悲しみを押し殺すように低く抑えた歌と、胸の内の激情をあらわすようなピアノのメロディが作り出す曲の世界観に引き込まれていました。曲が終わると男性は「俺、この曲だけはだめなんだよ」とあふれる涙をふいていました。

先日震災から10年を迎えた今日の音楽サロン、音楽リーダーのお二人が最後の曲として選んだのは『花は咲く』でした。歌う前、後藤さんは「これからも歌でみなさんの想いに寄り添い、少しでも癒したり、励ましたり、勇気づけたりできればと思います」と挨拶しました。
サロンの最初に『故郷』を歌ったときは、そっと目元を拭う人もいました。『花は咲く』には、みなさんどんな想いを託したのでしょうか。前奏が始まると、ある人は居住まいを正し、またある人は静かに目を閉じて、それぞれが曲と向かい合っていたように感じます。後藤さんと田村さんの温かい気持ちがこもった演奏に、心がゆっくりとほどけていくような時間でした。

間もなく新しい季節を迎える今、こうして少しずつでもみなさんと一緒に音楽を楽しむ時間が戻ってきて嬉しく思います。来年度の音楽サロンは5月から再開予定なので、またぜひ足を運んでくださいね!