お知らせ

メモリアルコンサート vol.39

2022.12.11

音楽の力による復興センター・東北では
東日本大震災の月命日にあたる11日に、市民のみなさんとともに
音楽を通じてあの日に思いを馳せる場を設けたいと考え、
「メモリアルコンサート」を企画制作しています。
(主催=仙台市/協力=せんだい3.11メモリアル交流館)

早いもので、今日のメモリアルコンサートが今年度最後の開催となります。出演いただくのはヴァイオリン叶千春さん、ピアノ菅野明子さんのデュオBouquet of Music(ブーケ・オブ・ミュージック)。今日はお二人が大好きな曲、みなさんに聴いてもらいたいと思った曲を選んできてくれました。

コンサートはピアソラの『アヴェ・マリア』で始まりました。世界には様々な作曲家によるアヴェ・マリアがおよそ200曲もあり、叶さんの所感ではその中でもピアソラによるものは5~6番目に有名かな?というところだそう。タンゴのイメージが強いピアソラですが、『アヴェ・マリア』の甘く美しいメロディもすばらしいですね。
2曲目は葉加瀬太郎の『ひまわり』。季節外れなタイトルの曲を今日のプログラムに組み込んだ理由は、この曲が震災当時に放送されていたNHK朝の連続テレビ小説「てっぱん」の主題歌だったことにあります。震災後は災害報道優先のため、ドラマの放送が一時休止されました。そうして1週間後に再開された放送で再び『ひまわり』を聴いたときのことを、叶さんは「とても心にしみるものがあって、またヴァイオリンを弾きたいと思わせてくれました」と振り返りました。叶さんと同じように、明るく前向きなメロディに元気づけられた人も多かったことでしょう。叶さんのお話に何度も頷いて、お二人の演奏に耳を傾けていました。

さて、Bouquet of Musicの演奏活動には、2つのテーマがあるそうです。ひとつは童謡や唱歌といった日本に古くからある曲を未来に伝えていくということ。そこで今日は滝廉太郎作曲の作品を2つ選んでくれたそうです。1曲目は日本で最初に作られたピアノ曲『メヌエット』。こちらは菅野さんのソロ演奏でお楽しみいただきました。シンプルながらとても美しい旋律が魅力的です。2曲目は土井晩翠作詞のご当地ソング『荒城の月』です。地下鉄の時報に採用されるなど仙台では何かと耳にする機会も多いですが、生の演奏で聴くのはひと際良いものですね。
Bouquet of Musicのもうひとつのテーマは 「あまり知られていないけど素敵な曲を紹介すること」。そんな曲として、今日はシュトラウス作曲の『モルゲン!』という曲を演奏してくれました。モルゲンとは「明日」という意味で、明日の朝も大切な人と一緒に素敵な景色を見られたらいいな、といった意味の歌詞がある曲だそう。確かに耳になじみはないですが、自分の幸せを静かに語るような繊細なメロディはとても美しく、かすかな音も聴き漏らさないようにじっと耳を傾けてしまいます。お二人は2年程まえにこの曲に出会ってからは機会があるたびに演奏しているそうですが、その時々で演奏にかかる時間が随分違うのだとか。気持ちや体の状態、会場の様子など様々な条件によって少しずつ演奏の仕方が変わってくるのだそうです。「たとえば、走るのと同じでお腹がいっぱいだと早いテンポで演奏できないんです。そんなことも影響してくるから、音楽って面白いなと思いながらいつも演奏しています」と叶さん。演奏に影響を与える要因は思っている以上に色々なものがあるんですね。

続いては最初の曲と同じピアソラの作品の中でも特に有名な『リベルタンゴ』を演奏してくれました。「タンゴは内から熱くなる曲なので、寒くなると聴きたくなるんです」と話してくれたように、『アヴェ・マリア』とは対照的な力強く情熱的な演奏でお客様を魅了していました。「この曲の菅野さんの楽譜がすごいんですよ」と叶さんが示したのは、縮小印刷した楽譜8枚が見開きページに貼られた菅野さんのノートです。グランドピアノに比べて楽譜を置くスペースが狭いアップライトピアノでは全ての楽譜を長く広げることができず、かといって『リベルタンゴ』では休まず鍵盤を叩いているので途中で譜めくりもできないので、こうした形になったそう。本来はA4サイズの楽譜が4分の1くらいに印刷されており、そんな細かい譜面を目で追いながらよくこんなに激しい曲を演奏できるなぁと驚きです。お客さんも首を伸ばして菅野さんの楽譜を見て目を丸くしていました。
プログラムの最後はバーリンの『ホワイトクリスマス』、そしてアンコールに『きよしこの夜』と、2曲のクリスマスソングでコンサートは幕を閉じました。

これまで様々な会場で開催した復興コンサートで演奏してくれた叶さんと菅野さん。クラシックの曲はもちろん、リクエストに応えて歌謡曲や地元の民謡といった、それまであまり扱ってこなかったジャンルの曲を演奏する機会が多くなったといいます。2011年から復興コンサートに参加してきた叶さんは、「色んな曲を演奏する中で、聴いた方に喜んでもらったり、一緒に歌ってもらえたりしたことで大好きになった曲もたくさんあります。復興コンサートでの演奏を通して、自分たちの音楽の幅が広がったように思います」と活動を振り返っていました。これからも色んな音楽と、そして様々な人々と出会い繋がる場を作っていきたいと思います。