お知らせ

亘理・長瀞小学校へ

2015.9.11

NPO法人クォーター・グッド・オフィスは、新人演奏家や優れた音楽家を支援をする一方で、チャリティコンサートを毎年開催し、その収益金で、日頃クラシック音楽の生演奏にふれる機会が少ない子供やお年寄りのために無料の出前コンサートを行っています。その活動は25年に及ぶそうで、東日本大震災以降は被災地への出前コンサートに積極的に取り組んでいます。これまで岩手県大槌町、仙台市若林区、宮城県大崎市や亘理町で行われてきた「つながれ心つながれ力復興支援コンサート」、今回は宮城県の亘理町立長瀞小学校で行われることになりました。
その活動趣旨が復興センターの活動と多く重なる部分があること、そして仙台フィル楽団員が出演するというご縁もあり、復興センターも協力することとなりました。

折悪しく、昨晩は台風による大雨で宮城県各地でも河川の氾濫や土砂崩れなど大きな被害が出ました。公共交通機関もすっかり麻痺しています。果して今日のコンサートはできるのか、と開催が大変危ぶまれました。一夜明け、嘘のように穏やかな秋晴れとなった今朝、演奏家たちもあちこちの通行止めや大渋滞をくぐり抜け、やっとのおもいで会場にたどり着くことができました。
全体ここ長瀞小学校には「津波襲来の地」という碑が立っています。以前の校舎は被災のため取り壊されました。再建までの間、児童は離れた内陸の学校に間借りしていました。昨年8月に現地再建が成り、もとの場所で自分たちの学校に通えるようになったのだそうです。
今日の出演はソプラノ鵜木絵里さん、テノール上原正敏さん、ピアノ多田聡子さん、そして仙台フィルからヴァイオリン宮﨑博さん、ヴィオラ長谷川基さん、チェロ吉岡知広さん、コントラバス河野昭三さんの総勢7名です。会場の体育館は新しくぴかぴかで、明るい雰囲気です。長瀞小の4~6年生と吉田中学校の全校生徒に加えて地域の方々もたくさんいらして、およそ300名の老若男女が集合しました。次々に校門を入って来る地域の方々の様子が「いそいそ」としていて、コンサートをとても心待ちにしていらしたことが伝わってきます。
brindisiコンサートはヴェルディ『乾杯の歌』で華やかに始まりました。鵜木さんと上原さんの声に大人も子供もびっくりしていたようです。鵜木さんの小柄で可愛らしい外見からは想像できないほどの声量があって、圧倒されます。unoki
上原さんはすらりと長身、でも司会進行するときはわざとぽそぽそと、やる気なさそうに小さな声で話します。その独特の間に子供たちはくすくす笑いが止まりません。共演者も爆笑していました。そうして、いざ歌い出すと、ものすごい声量で高音を楽々とこなすので、そのギャップが実に爽快で、みなさん釘づけになっていました。uehara
多田さんは流麗に、力強く、的確に、軽やかに、と自由自在にピアノを鳴らします。また、演奏曲のいくつかを編曲なさったそうで、多彩な方です。「これ、学校のピアノですか?」と休憩時間に質問してきた先生がいました。「弾く人がちがうとこんなにもちがうんだねえ」と感心していました。
quartet弦楽のほうも、シューベルト『鱒』などおなじみの名曲のほかに、チェロとコントラバスによるグノ―『プティ・スケルツォ』、ヴァイオリンとビオラによるホフマイスター『デュエット』など、あまり耳にする音のない曲目を披露しました。
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vn vlaオペラ、日本歌曲、イタリア民謡、ポップスを取り混ぜた全15曲、たっぷり2時間お楽しみいただきました。文字通りぽかーんと開いた口がふさがらない子や目を閉じてワルツのリズムに全身をゆだねる子の姿がありました。身を乗り出して聴き入る中学生、そっと体を揺らしながら目を細めているご高齢の方など、それぞれの聴き方で音楽を呼吸していたようです。
merry最後の『メリー・ウィドウ』が終わった時に客席後方のおばさま方数人がすくっと立ち上がって拍手をしました。東北の人はシャイだとよく言われますが、今日のお客さんはちがうようですね。そのスタンディングオベーションが前の方にも伝播してきて、会場全体が熱狂的な喝采に包まれました。finale
生の声と生の音、演奏する人と聴く人との共鳴。同じ空間で同じ時間で共有できることの仕合わせと豊かさを身体全体で満喫できました。雨にも負けず風にも負けず、共に集えたことを感謝したいと思います。ありがとうございました。