お知らせ

ゆりが丘「秋のふれあいコンサート」開催しました

2015.9.10

仙台市の南隣に位置する名取市には津波で沿岸部の町が壊滅するなど、甚大な被害がありました。その名取市の西部にあるゆりが丘地区は高台にあり、一時は沿岸部から避難してきた人が多くありました。現在も数十世帯に被災者がお住まいとのことです。みなし仮設に暮らす人たちを支援する名取市サポートセンターどっと.なとりとゆりが丘公民館が協働し、被災した方々と地域住民の交流の機会として「秋のふれあいコンサート」を開催することとなりました。
7489このところずっと雨続きだったところに、さらに台風が接近しており、今朝は風雨が一段と強くなっています。スタッフも演奏家もどしゃ降りの中、会場に到着しました。「今日はお客さん来られないかもねえ」と心配しながらリハーサルをしていました。しかし、開場時刻が近づいた頃には雨が止み、人々が三々五々集まってきて、用意した座席はいつしか満席となりました。
7504本日の出演は仙台フィルから3名、ヴァイオリン伊部祥子さんと熊谷洋子さん、ヴィオラ御供和江さん、そして今回が復興コンサート初出演のピアニスト高塚美奈子さんによる「アンサンブル・ピノ」です。まずはべートーヴェン『メヌエット』で幕開けです。続いて熊谷さんがヴィニヤフスキ『レゲンデ』を紹介しました。7338
ヴァイオリンの名手でもあったこの作曲家の作品は弾くのが難しいそうです。「これは『結婚したい!でもできない~』という苦悩が表れている曲です」との解説にお客さんはくすっと笑っていました。耳なじみのない曲でも事前にちょっとしたエピソードを聞くと、その人間味に親しみがわいて曲が聴きやすくなりますね。
7359御供さんは「ヴィオラの独奏をすることはあまりないので、緊張します」と言いつつ、『椰子の実』、バッハ『アリオーゾ』を披露しました。ヴィオラのならではの深くて渋い、馥郁たる響きが会場を満たし、みなさんしみじみと聴き入っていました。

続いてはプッチーニ『私のお父さん』です。オペラアリアとしても有名なこの曲について伊部さんが「これは・・・まあ遺産相続の話で、結婚させてくださいという内容です」というやや身も蓋もない解説をしたところ、客席からどっと笑いが起こりました。でも演奏は二人のヴァイオリンの音色がせつなく美しいハーモニーを生み、しっとりとした時間となりました。7379
その後は伊部さんと高塚さんによるクライスラー『中国の太鼓』、弦楽トリオのドヴォルザーク『二台のヴァイオリンとヴィオラのためのテルツェット』など、復興コンサートでは初めて聴く曲が演奏され、お客さんも本格的なクラシック音楽を至近距離で堪能していた様子でした。
7563終わりに、『赤とんぼ』『七つの子』をみなさんに歌っていただきました。伊部さんが「まさか歌を披露することになるとは…」と少し照れながら歌のリーダーを務めました。みなさんの声が会場いっぱいに満ち、そこに弦とピアノの音が合わさって、とても豊かであたたかなものに包まれた感じがしました。7591
7585どっと.なとりのスタッフさんが終演後の挨拶で言いました。
「演奏する人がいて、場を用意する人がいて、そして聴いてくださる人がいる。みなさんがいるからこそ、このコンサートができました。このご縁をどうか大切に、広げていってください」
その言葉にお客さんも演奏家もうなづいていました。

7610演奏後は会場を移動し、演奏家もお茶飲み会に参加しました。各テーブルではそれぞれに話の花が咲いていたようです。なんてことない世間話を交すことがまた楽しいんですね。
「普段はここに来てないんだけど、今日はコンサートだから初めて来ました」「ドヴォルザークが好きでねえ」と話すご夫婦がいました。また、買ったままで使っていないヴァイオリンの相談をしていた方もいましたよ。7612
お茶飲み話の中にもふと震災のことが出てきます。
「知り合いのところに居候してたから支援の手が全く届かなくて、プレハブ仮設の人をうらやましく思ってたこともあるんだよ」
「ほんとだよね」
そう語った方も、今は自宅再建したりその目途が立ったということで明るい笑顔をしていました。7617
あるご高齢のご婦人は「私は田舎の出だから、バイオリンなんて聞いたことも見たこともなかったんです。今日は本当に来て良かったです。どうもありがとうございました」と深々と一礼していかれました。その真っ直ぐさにむしろこちらの方が頭が下がる思いがしました。

お客さんがお帰りになり、すっかり片付けが終わった頃、また土砂降りとなりました。今日のこの縁のために空がちょっと手加減してくれていたのでしょうか。恐縮です。