お知らせ
川の上・百俵館「うたっこコンサート」へ
- 2015.9.27
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三陸自動車道の河北インターを降りてすぐ、登米へ抜ける細い道の脇に、白壁の鮮やかさが目をひく素敵な屋敷があります。この「川の上・百俵館」は大正時代の精米所を改築したおしゃれな図書館カフェです。高い天井に見える梁には精米機の名残の車輪が残されていて、昔と今がここで出会っています。
歩いてすぐのところには大規模なプレハブ仮設住宅群があり、また、川の上地区は集団防災移転指定地域とのことで近い将来、多くの移転者を迎えることになります。新しいコミュニティ形成が喫緊の大きな課題となっています。そこで、百俵館は地域の方々が気軽に立ち寄れる交流拠点を目指して開館しました。気軽におしゃべりしたり本を読んだりできるカフェのほか、中高生のための学習支援、文化やまちづくりに関する講座や各種ワークショップが開催されています。
復興センターでは今年度、百俵館と協働し、季節に一度「カワノカミ音楽会」を開催することにいたしました。
今回はその第一回、出演は杜の弦楽四重奏団(ヴァイオリン叶千春さん・駒込綾さん、ヴィオラ齋藤恭太さん、チェロ塚野淳一さん)です。今朝は澄み渡る青空のもと、館内には柔らかな秋の陽光が差して明るく照らしています。塚野さんがチェロを取り出して一音鳴らしたとたん、他のメンバーから「うわ!」とおどろきの声が出ました。木造に白壁づくりのこの建物と弦楽器は相性が良いようです。音がとてもまろやかに、そしてクリアによく響いて、演奏家もこの空間をすっかり気に入った様子。嬉しそうにリハーサルしていました。
開場時刻のだいぶ前にいらして隣接のカフェスぺースからリハーサルを見守っているお客さんが「拍手しちゃだめかしら?」と小さな声で話していました。
ある方は遠くから車で、ある方はお隣りの仮設住宅から徒歩でいらして、会場にはスタッフさんも含めて30名の参加者が集まりました。用意した椅子が足りなくなるほどでした。
カワノカミ音楽会の幕開けはモーツァルト『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』で華やかに始まりました。全身を包み込むような弦楽の豊かな響きにお客さんは「うわ!」とおどろいた様子でした。
パッヘルベル『カノン』、ヴィヴァルディ『春』などおなじみの名曲が活き活きとした“体感”として味わっていただけたのではないでしょうか。
千春さんの進行で、曲や楽器についてわかりやすく解説が入ります。川の上のお客さんは興味を持っていろいろ応えてくださり、和やかなサロンコンサートの風情となりました。
前半に西洋クラシック音楽を堪能していただいたあと、後半では演奏に合わせてみなさんにたっぷりと歌をうたっていただく趣向です。
『北国の春』『リンゴの唄』『赤とんぼ』など懐かしの昭和歌謡や唱歌を、塚野さんの話題豊富な進行にのせて次々と歌っていきます。お客さんに歌詞カードをお配りしたとき、「え、これ歌っていいの?うれしい」とにっこりなさったご婦人がいました。『北国の春』の歌が始まったときは、今度は演奏家のほうが「うわ!」と圧倒されてのけぞりました。色とりどりの力強い歌声が会場に満ち、エネルギーのかたまりができたみたいでした。
最前列に掛けていた本日の最高齢の方も「みんなで歌うとなかなかいいもんだねえ!」と朗らかに笑って言いました。プレハブ仮設住宅や移転した先の集合住宅では大きな声や物音を出さないように気にしながら暮らしているという話をよく聞きます。このうたっこコンサートで日頃の憂さ晴らしをしていただけたら私たちもうれしいです。背筋を伸ばして歌う方や、そっと涙をぬぐう方の姿もありました。百俵館スタッフの方も「こんなふうに集まる機会があると、みなさん本当に喜ばれるんですよ」とおっしゃっていました。人びとの交流に機会に音楽がお力添えできれば私たちも冥利に尽きます。
たっぷりと歌って、客席も演奏家も双方で拍手し健闘を讃えつつのお開きとなりました。みなさん輝くような笑顔を見せてお帰りになりました。余韻を惜しむようにしばらくおしゃべりに興じていた方もいました。
会場を出ると、たくさんのとんぼが飛んでいて秋の到来を告げています。周辺の水田ではそろそろ稲刈りが佳境を迎える頃ですね。次回のカワノカミ音楽会は12月、きっと雪が舞っている頃でしょう。また元気にお会いしましょうね!