お知らせ

駅なかメモリアルコンサートvol.6開催しました

2016.10.11

音楽の力による復興センター・東北では今年度、毎月11日に地下鉄東西線の
国際センター駅と荒井駅を会場にした「駅なかメモリアルコンサート」を企画制作しています。
東日本大震災から5年が経過した今だからこそ、市民のみなさんとともに、
音楽を通じてあの日に思いを馳せる場を設けたいと考えました。
(主催=仙台市)

季節はぐんぐんと進んで、朝晩はだいぶ肌寒くなってきました。東日本大震災から5年7か月の今日は穏やかな秋空となりました。
dscn1552本日の出演は仙台オペラ協会のソプラノ岩瀬りゅう子さんと松本康子さん、ピアノ伴奏は富樫範子さんです。田子西復興公営住宅での「うたカフェ」で毎月お世話になっているお三方にご登場を願いました。会場にはおよそ150人の来場者がありました。だいぶ早くからいらして、リハーサル中から拍手をくださる方もいました。
オープニングは嵐の『ふるさと』二重唱です。ご出演のみなさんはだいぶ緊張していた様子でした。いつもの復興コンサートやうたカフェとはちがう空気がメモリアルコンサートにはあるようですね。
dscn1589続いて、岩瀬さんは山田耕筰『箱根八里は』を、松本さんはモーツァルト『モテット(踊れ、喜べ、汝幸いなる魂よ)』をそれぞれ独唱で披露しました。
このモテットは第一楽章から第三楽章まで全体で15分以上にも及ぶ大曲で、モーツァルトらしい軽やかな旋律に乗せて、声とピアノが綾なす華やかなハーモニーををたっぷりと堪能していただけたように思います。特に第三楽章『アレルヤ』の寿ぎと喜びが会場に広がって晴れ晴れをした気分が漂いました。dscn1571
さらに、岩瀬さんがプッチーニ『歌に生き、愛に生き』『ドレッタの素晴らしい夢』を歌いあげ、オペラアリアならではの情熱的な歌声にお客さんは圧倒されていました。歌が終わるたびに客席からは「おおぅ…」とため息が聞こえ、大きな拍手が沸きます。
コンサート中盤になって、松本さんが震災直後に行われた復興マラソンコンサートに出たときのことを語りました。
dscn1597観客に少しでも明るい気持ちになってもらえるとようにと、この『踊れ、喜べ、汝幸いなる魂よ』を歌ったのですが、どうしても第三楽章を歌う気持ちになれず、歌えないままに演奏を終えてしまったそうです。自分に前向きな気持ちがないのに他の誰かに「前向きになってください」とは歌えないことを痛感し、思い悩んだそうです。
それから5年以上が経った今日、松本さんはこの歌をやっと歌い切ることができました。
「この話をすると泣いてしまうので、この歌を歌い終わるまではトークしないで進めてきました」と、言いました。その声は少し震えて潤んでいました。

後半は日本の唱歌メドレーと『花は咲く』が演奏されました。
dscn1627「よろしければご一緒に歌ってください」と誘うと、みなさんが歌ってくださって大合唱になりました。dscn1634
或る方は大きく口を開けて、或る方はささやくように、どの方もそれぞれのやり方で歌っていました。
その温かい歌声に包まれながらこの5年の年月が思い起こされて、スタッフながら思わずほろりとしてしまいました。

dscn1654「最後はお祈りの歌をうたいます」と岩瀬さんがカッチーニの、松本さんがマスカーニの『アヴェ・マリア』を独唱しました。世界には災害や戦争をはじめ、悲しいことつらいことがたくさんあります。それらを前にして人は本当に非力です。私たちにできることは祈ることしかないかもしれません。でも、その祈りが誰かを励まし、状況を変えることもあるかもしれません。あきらめずに生きてゆくこと、希望を持つことを忘れないでいたいとお二人の歌う姿を見ながら感じました。dscn1595
大喝采の中「ブラボー!」の声が上がりました。杖を支えにしていた或る人はわざわざ立ち上がって演奏家に拍手を贈っていました。アンコールを催促するリズミカルな手拍子があちこちから湧いて大賑わいになりました。
「実はアンコールを用意してなかったので…」と松本さん。お客さんがどっと笑いました。
dscn1554異例の会場リクエストによるアンコールは、最初に演奏された『ふるさと』でした。お客さんと演奏家の満面の笑顔で終演となりました。
みなさん、素敵な歌声をありがとうございました。dscn1636