書きものアーカイヴ

河北新報「座標」5 地域復興の先例

2012.11.13

前回紹介した兵庫県立芸術文化センター(西宮市)で、開館5周年を祝う1枚の手作り感謝状を見せていただきました。
「西宮にようこそ。人と人、人と音楽をつなぐ大切な役割とこれからも」
一体感のある温かいメッセージです。贈り手は「西宮活性化協議会 西北の仲間すべてから」と記されています。
阪神淡路大震災によって1140人を超える方が亡くなった西宮市。阪急西宮北口駅周辺、芸文センターから徒歩数分の範囲に合わせて五つの市場、商店街(仙台朝市のような雰囲気です)が集まる西北地区でも多くの方が犠牲になりました。「この一帯はまるで廃墟のようだった」と、同協議会の松山享会長は振り返ります。
さらに、1980年代後半から計画されていたこの地域の大規模なまちづくりに参加する予定だった企業が、震災後倒産したり、撤退したりしました。松山会長は「ゼロから再スタートすることになった復興のまちづくりには、文化的なテーマが必要と考えていた」と話します。
こうした状況の中、芸文センターと西北活性化協議会の具体的な協力が少しずつ始まり、やがてセンターはこの地域の復興そのものもリードする大役を担うようになりました。その後、協議会には商工会議所、市内の大学、周辺自治体も参加。センターの公演と連動しながら数多くのイベントを実施し、にぎわいをつくりだしてきました。
例えば、佐渡裕芸術監督がプロデュースするオペラの前夜祭やクリスマスイベント、地域のミュージシャンが参加する「にしきた音楽祭」など。「手づくり感を大切に、楽しく」がモットーです。
一方で、芸文センターの開館で阪急西宮北口駅の乗降客がひと月3万人も増えた状況から、この地域の交通アクセスの良さ、優れた住環境があらためて注目されるようになりました。芸文センターの開館と前後して、商業施設や図書館、消費生活センターを有する大型複合施設「アクタ西宮」、中央公民館や男女共同参画センターが入る「プレラにしのみや」などが相次いで建設されます。
2008年には隣接の阪急西宮球場跡地に西日本最大級のショッピングセンター「阪急西宮ガーデンズ」が完成し、新設された甲南大学のマネジメント創造学部のキャンパスもオープンしました。
芸文センターの経済波及効果調査によると、センターの利用者の6割近くが公演の前後に阪急西宮北口駅の商業施設に立ち寄っています。センターと周辺施設とが一体となって人の流れをつくり、消費行動の活性化に寄与しているのです。ちなみに、センターの波及効果は県内で71億円と算定されています。
また芸文センターは、市外の人が西宮市で「レジャー・観光目的に一番多く行った場所」「まず思い浮かべる場所・施設」の上位にランクされています(西宮市のアンケート)。こうした魅力が評価され、大手不動産会社による2010年の「関西の住みたい街」ランキングで、阪急西宮北口駅は第一位となっています。
芸文センターの建設が、まちの個性や住みよさを生み出し、地域振興の原動力となっていることを実感しました。
兵庫県立芸術文化センターと阪急西宮北口のまちづくりは、「楽都」という個性を持つ仙台の復興のまちづくりにとって、極めて貴重な先例と言えるのではないでしょうか。

大澤 隆夫
一般財団法人音楽の力による復興センター・東北代表理事
公益財団法人仙台フィルハーモニー管弦楽団参与