お知らせ

田子西「うたカフェ♪」_7月

2017.7.21

仙台市宮城野区にある復興公営住宅の田子西市営住宅では
町内会主催のサークル活動として
この住宅とその周辺にお住まいの方々の交流の場
「うたカフェ」を2014年10月から始めました。
昔なつかしい歌声喫茶にヒントを得て、みんなで歌い
おいしいコーヒーとおしゃべりを楽しもうという趣向です。
復興センターでは仙台オペラ協会と協働し
音楽リーダーとなる音楽家をコーディネートしています。
(仙台市音楽の力による震災復興支援事業)

いつも日差しがたっぷり差し込んで居心地の良いこの集会所ですが、こう暑くては日陰のほうが有り難いです。今日はカーテンで焼けつくような太陽を遮ることにしましょう。暑さに負けず17名の参加者が集まりました。
喫茶ひこのマスター西垣さんはホッととアイス両方のコーヒーを用意してみなさんが来るのを待ちます。やってくるなり「はぁ~」とため息をついて、汗を拭き拭き「今日はさすがに冷たいのにするわ~」とアイスコーヒーを所望する人が多数でした。
今日も音楽リーダーを務めるのは仙台オペラ協会ソプラノ松本康子さんと岩瀬りゅう子さん、ピアノ伴奏は富樫範子さんです。
まずは発声を兼ねて顔のストレッチから始めました。あいうえおの母音を顔の筋肉をおおげさに、最大限使うイメージで発音します。頬や口角をぐいっと持ち上げたり唇をずうっと遠くへ突き出したり、ムンクの「叫び」みたいな顔で「お~!」と言ったり。
「年を取ると鼻の下がのびて来るそうですよ。今日は思い切り縮めてみましょう!」と松本さんが言うと、ほとんどの人が「あら大変!」とばかりに頑張って縮めていました。
続いては上半身のワークです。なんと今回、松本さんは新しくオリジナルの「たけのこ体操」を作って来たそうです。すごいですねえ。
前回歌った『こぎつね』に合わせて両腕を大きく上げて、回して、突いて、広げて、とシンプルながら肩にも脇腹にも背中や胸にも効く体操でした。


さて、本日のテーマは「生き物が出てくる歌」だそうです。おなじみの童謡『いぬのおまわりさん』では歌詞に出てくるイヌ、ネコ、カラス、スズメの4つに組み分けして、歌の途中でそれぞれ吠えたり啼いたりさえずったりしました。
最初はちょっと恥ずかしそうでしたが、松本さんの熱血リードにつられて「ワンワンワン!」「わからニャーイ!」とだんだん鳴き声が元気になってきました。
『あめふりくまのこ』ではまず歌詞をゆっくり朗読しました。岩瀬さんが「言葉のイメージを大切に、音に表して読みましょう」と言い、歌に描かれた情景を説明しました。
「どんな雨が降ってますか?」「このクマの子はどんな気持ちかしら?」「頭に乗せた葉っぱはどんな大きさ?」と問いかけます。

ああなるほど、歌はこうして味わうものかと気づきがありました。そして「歌うときはやさしく話し掛けるように…」と言われて、みなさん絵本を読むようなほのぼのと温かい雰囲気で歌っていました。
最後はがらりと趣向を換えて、ラテン系の『車にゆられて』を歌いました。原題は『ラ・クカラチャ』というメキシコ民謡だそうです。「これ、知らないわ」という声があったので、少しずつ繰り返して練習しました。サビの「ラ・クカラーチャ、ラ・クカラーチャ」の反復が軽快で意味は解らずとも朗らかな気分になってきます。
一通り歌えるようになったところで「この歌に出てくる生き物はなんでしょう?」と松本さんがクイズを出しました。歌詞のどこにも動物の名前は見つかりません。みなさんは歌の情景から想像して「干し草だからウシ?」「荷馬車のウマ?」など答えを捻り出しました。
「実は…クカラチャってごきぶりのことなんです」と松本さんが正解を言うと、「うわっ!」「いやだ~!」と思いきり顔をしかめて大笑いするご婦人方なのでした。

コーヒータイムのミニコンサートではやなせたかしさんの特集が披露されました。お手伝いに来てくださった菊地さんも加わった『手のひらを太陽に』ゴスペル調のアレンジで、みなさんも手拍子で参加して盛り上がりました。
「ぼくはにんげん、きみはどうぶつ」というやなせさんらしい歌詞の『地球の仲間』では松本さんと岩瀬さんのハーモニーが明るく響いて、リズムにのって体を揺らしている人がたくさんいました。今日のテーマにもピッタリの可愛い歌でした。
最後に松本さんは「私たちはオペラ歌手なので、たまにはしっかりしたオペラを歌っておかないと…」と、チレア作曲のオペラ『アドリアーナ・ルクヴルール』より『私は卑しいしもべ』を独唱しました。自分を芸術の神に仕える召使だと語る実在の女優アドリアーナの歌です。
歌が始まった途端に会場の空気ががらりと変わったのがわかりました。みなさんは背筋を伸ばし真剣な表情で歌に集中し、全身で聴いているようでした。松本さんの歌声に圧倒されそうになりながら、みなさんはじぃっと耳を澄ましています。ピアノの富樫さんはほとんどぶっつけ本番だったそうですが、歌声を支え、歌に呼応するようにドラマティックな伴奏を見事やり遂げました。歌が終わって一瞬沈黙があり、大きな拍手が沸きました。集会所が劇場と化したかのようです。
毎回工夫を凝らしたプログラムを持って来てくださる演奏家のみなさんには本当に頭が下がります。どうもありがとうございます。今後も歌の愉しみを多くの人びとと分かち合っていきましょう!