お知らせ

七ヶ浜「お茶っこ会 in 花渕浜」へ

2017.9.6

一昨日に続いて、今日も七ヶ浜へ。多賀城と塩釜の間から、太平洋へと迫り出す七ヶ浜町の、一番外海側の浜が花渕浜。350戸あったうち120戸あまりが、津波によって失われました。かつての集会所は地区の中心部にあったため、多くの方は七ヶ浜国際村やアクアリーナへ避難したと言います。その後、仮設住宅に移った後、現在は50戸が災害公営住宅へ。また、七ヶ浜国際村のすぐ下に造成された笹山地区へ、自立再建された方も多く、現在の花渕浜地区は250戸ほどとかつての2/3まで減ってしまいました。

新しい集会所(花渕浜地区避難所)が建ったのは、一昨年のこと。花渕浜地区町営住宅の敷地にある集会所では、月に一度、町の社会福祉協議会が主催するサロンだけではなく、地区として独自に軽体操の日や、お茶っこの日、遠足の日があります。家に引きこもりがちな高齢者同士、定期的に顔を合わせ、お互いに知り合い、仲間・友達となれるよう関係づくりをお手伝いされています。

今回は、その社協主催の地区サロン「お茶っこ会 in 花渕浜」に合わせて、お招きいただきました。出演は、2月の「汐見台4丁目あつまらん会」に続いて、クラシックギターの佐藤正隆さんと小関佳宏さんによる二重奏です。小雨が降る天気に出足が心配されましたが、20名を超すお客様が集まってくださいました。

長年、親交のあるお二人は一見兄弟のようでもあり、演奏だけでなくお話しの息もぴったりです。自己紹介に続いて、まずはクラシックギターらしい1曲をと、ギターのための多くの作品を残したスペインの作曲家ソルの「小さな嬉遊曲」から。とても繊細な音量でいて、細やかな変化に富んだギターの音色を、みなさんじっと聴いていらっしゃいました。演奏が終わった途端「指、あんなに速く動いてすごいねぇ!指ばっかり見てしまった!」と、思わず客席から声が。すかさず正隆さんが「指だけじゃなくて、顔も見てくださいね」と笑顔で返すと、会場はどっと笑い声で溢れました。コンサートが始まるまで、どことなく緊張した面持ちだったものの、そんなアットホームなやりとりに一気に客席のみなさんも解されたようです。

クラシックギターのために作品を書いたのは、決して有名ではない作曲家たちです。けれども、ベートーヴェンは「ギターは、1本だけでも既にオーケストラのようだ」と評したそうです。ベース、メロディー、そして内声のハーモニーまで、一人何役もできてしまうクラシックギター。三味線や琴のように、大きな音は出ませんが、たくさんの音色を使い分け、時には楽器を打楽器のようにも使う様子も、たしかにオーケストラを連想させます。ピックではなく自分の爪を伸ばして、その爪を使って弾くことなども、正隆さん、小関さんが丁寧にお話しくださいました。

「今日は、みなさんが恐らく初めて聴かれる曲と、耳馴染みのあるだろう曲とを交互に、サンドイッチのように並べてお届けします」というわけで、続いては「川の流れのように」、そしてギターのためにたくさんの曲を書いた佐藤弘和の作曲による「遠い谷への旅」、「また君に恋してる」までが二重奏で演奏されました。途中には「中学生の頃、ギタ―が流行って私も『禁じられた遊び』を弾いてみたけれど…」とまたまた客席から声が。「それなら、後ほど弾きましょう」と、正隆さんのソロで「禁じられた遊び」を。また小関さんもソロで「アルハンブラ宮殿の思い出」を演奏しました。前者はアルペジオ、後者はトレモロ、という、それぞれクラシックギターの代表的な奏法を堪能することができました。また、中・高生時代にギターを弾かれた方には、どちらも懐かしさを思い起こす曲だったようです。

再び二重奏に戻り、佐藤正隆作曲「ディアリオ」。これは、NHK仙台放送局発信のラジオ番組「ゴジだっちゃ!」のテーマソング。この曲以外にも、佐藤&小関コンビで、この番組に出てくる音楽の作曲・演奏を手掛けていらっしゃるそうです。スペイン語で「普段のくらし」を指すこの曲は、震災後に、東北のみなさんが早く日常を取り戻せますようにと、祈りを込めて作られた曲とのこと。朝、目が覚めて、まず青空に向かって窓を開ける時のように、爽やかな風を感じるような音楽でした。日本の歌メドレーは「浜辺の歌~ずいずいずっころばし~故郷」。凝った編曲なので、歌っていただくのは難しいかも…という小関さんの心配を他所に、全く難しくなさそうに昔懐かしいメロディーを口ずさむみなさん。やはり、歌ってついつい、一緒になって歌いたくなってしまうのですね。

そして最後は、佐藤&小関デュオのために書かれた、佐藤弘和作曲「HOPE」。小関さんのギターと作曲の師であった佐藤弘和さんは、昨冬に若くして亡くなられました。震災後の2012年に、なにか、被災された方々を元気づける一曲をと委嘱、書き下ろしていただいた曲なのだそうです。もちろん、お客様はみなさん初めて聴かれたはずですが、目をしっかりと閉じてじっくりと耳を傾けてくださる方、いつの間にか涙をぬぐっていらした方、本当にそれぞれの聴き方で受け止めていらっしゃいました。

盛大な拍手に、アンコールはギタリスト二人は伴奏に徹して「青い山脈」をみなさんで歌っていただきました。ちょうど青春時代にこの映画を観たという方も。懐かしい歌に、今日は5歳、10歳、若返られたのではないでしょうか?終わって下がろうとすると「もう一回!もう一回!」の掛け声と手拍子…。アンコールを日本語で言うと確かに「もう一回!」。「でも、僕『もう1回!』て聞いたの、初めてです」と小関さん。みなさんやっぱり大爆笑。「では、最後はしっとりと…」と正隆さんがご紹介くださったのは「海は 広いな 大きいな~♪」の「海」を二重奏に編曲したもの。静かで雄大な海を行く大きなタンカーを、窓の向こうに眺めるこの場所には、ぴったりの曲でした。みなさん、最後の音が終わった後の、静寂にも耳を澄ませてくださり…それはあたかも、遥遠くへ後ろ姿がだんだんに小さくなっていく船を、見送るかのような終わり方でした。

終演後のお茶会では、後半、ひとり一言ずつ感想を。「ギターの生演奏なんて、生まれて初めて聴きました。感動しました」「今日、コンサートがあると知らないで来たのですが…とっても良かったです」「中学生の頃、『禁じられた遊び』を頑張って練習していたので、今日はその頃の気持ちになりました」「ギターの生の音がとっても心地よくて、少し眠ってしまいそうになりました
」と、みなさん感じたままにお話しくださいました。少し眠ってしまいそうになったとは、最高の褒め言葉かもしれませんね。

天井の高い、三角屋根の会場は、生音での二重奏にちょうど良く響いてくれました。大きな窓の開く避難所は、外の栗の木に集まってくる鳥たちや、ベランダに降る雨、遠くに見える松林の名残と海…。開放感のある会場に、おばさん達の笑い声。益々この避難所が、みなさんの心の寄り処となっていきますように。