お知らせ

メモリアルコンサート_9月

2017.9.11

音楽の力による復興センター・東北では今年度、
奇数月11日に「メモリアルコンサート」を企画制作しています。
東日本大震災の月命日にあたる日、市民のみなさんとともに、
音楽を通じてあの日に思いを馳せる場を設けたいと考えました。
(主催=仙台市)

東日本大震災から6年と6か月が経ちました。岩手、宮城、福島あわせて2万人近い人がいまだ仮設住宅に暮らしています。一方で、復興公営住宅での新しい生活になじんだ人もいれば、なじめずに孤立する人もいます。さまざまなかたちで震災は続いていることを各種報道を通しても、復興コンサートの現場でも感じることがあります。
 本日のメモリアルコンサートに出演したのはフルート櫻井希さん、オーボエ西沢澄博さん、ピアノ藤井朋美さんです。お三方それぞれに復興コンサートへのご登場も多く、今日は一層思いの深い演奏を披露してくださいました。

会場には100名を超える参加者が集まりました。列の先頭に並んだご婦人が「今日は、とても楽しみにして来ました」とスタッフに声を掛けてくださいました。ありがとうございます。
バッハ『主よ、人の望みの喜びよ』で幕を開けたメモリアルコンサート、前半はクラシック曲、後半は日本の歌謡曲で構成されていました。
時にきらめく風のような、時にやさしい吐息のようなフルートの調べに、凛として伸びやかなオーボエの音色が綾をなし、流麗かつ確かなピアノの旋律がそれらを支えて、得も言われぬ時間が流れ出します。
時折、窓から道行く人の姿が見えるのですが、これらの音楽と重なると何か特別な、貴重な風景に感じられました。
藤井さんがピアノ独奏でバダジェフスカ『乙女の祈り』を披露すると、多くの人がその調べに身を委ねてうっとりと聴き入っていました。石巻市在住の藤井さんは、被災した人々に音楽を届ける活動を音楽家としての一つの使命だと思っていることを語り、その芯のある言葉に大きく頷く人がたくさんいました。
櫻井さんはR.アーン『ロマンス』をフルート独奏しました。名前のとおりの優しい曲で、柔らかなヴェールに包まれるかのような、日頃の疲れもふと癒されるような気持ちになりました。
西沢さんのソロはM.ビッチの『17世紀の主題によるフランス組曲よりパヴァーヌ』でした。端正な佇まいに温かみのある手触りを感じさせる演奏です。個人的な感想ですが、オーボエの音はなぜか「朝」を思い起こさせます。震災の日の長い長い夜が過ぎ、朝日が差したときのことをふと思い出しました。
西沢さんは「震災は音楽家としても大きな転換点になる経験でした」と語りました。音楽との向き合い方、音楽を通したその先の人との向き合い方ががらりと変わったそうです。
「音楽には何もできない」と一度は絶望しかけた音楽家でしたが、その後音楽を通して人びととつながること、人びとに対してささやかながらもできることを見つけ、歩んできた6年半です。音楽を奏でることは祈りそのものであり、希望することそのものであったのかもしれません。それは聴く側にとっても同じだったと思います。
櫻井さんは震災復興支援の演奏活動が100回近くなろうとしているそうです。震災だけに限らず世界には災いや争いがあふれ、何やらきな臭い昨今だからこそ、「次の世代に平和な世の中を手渡して行くためにも、私たちは音楽を届け続けていきたいと思います」と熱い思いを語りました。
プログラム最後の曲は中島みゆき『糸』です。「いつか誰かを暖め得るかもしれない」という詞のように、人を思いやること、その可能性を信じたく思いました。
大きな喝采と観客の笑顔に包まれて本日のメモリアルコンサートは終演となりました。秋のお彼岸ももうすぐ。遠く離れてしまった人がいっそう偲ばれる季節ですね。