お知らせ

燕沢東「新年コンサート」

2018.1.22

仙台市宮城野区にある燕沢東市営住宅は今年の春で丸3年になります。こちらにお住まいの方々は県内あちこちから移転して来たとのことで、そのほとんどが宅地被害によるものだったそうです。震災以前の地域コミュニティごと移転する防災集団移転地域とはちがって、さまざまな地域から集まってくるため、またゼロからコミュニティを立ち上げなければなりません。その難しさがあちこちの復興公営住宅で問題や課題となっています。
この住宅も当初は自治会を組織することに難渋したらしいですが、現在はだいぶ落ち着いた様子です。自治会では住民同士の親睦を深めるために「いきいきサロン」を毎月開催し、体操、手芸、カラオケ、食事会などさまざまなコンテンツを用意して楽しんでいるそうです。今回、新年最初のサロンで音楽を楽しみたいとのご希望がありました。そのリクエストにお応えして、今日は格調高く「新年(ニュー・イヤー)コンサート」と銘打ち、弦楽奏をお届けしました。出演はヴァイオリン小池まどかさん(仙台フィル)、チェロ八島珠子さん(仙台フィル)、ピアノ髙橋麻子さんのトリオです。会場には約20名の参加者が集まりました。

オープニングはヘンデル「水上の音楽」より『ア・ラ・ホーンパイプ』でした。電子ピアノをチェンバロの音色にしてバロック音楽ならではの雰囲気がいっそう感じられます。華やかさと同時に温かみのある響きが会場に満ち、曇天を忘れさせてくれるようなきらめきが広がりました。
続いてはマルティーニ『愛の喜びは』です。静かに体を揺らして聴いている何人かの姿がありました。会場には弦が良く響いて、肌に振動を感じます。じんわりと体をほぐしてくれるようで、遠赤外線のような効果がありそうに思いました。

 

クライスラーやサン=サーンス、そしてクープランなど、ヴァイオリンとチェロの魅力をたっぷりと披露していただきました。お客さんはじいっと真剣なまなざしで聴いていました。
プログラム中盤は懐かしの映画音楽特集です。『虹の彼方に』『ニューシネマパラダイス』など演奏家自身も大好きだという映画の主題曲が演奏されました。おなじみの『サウンド・オブ・ミュージック』について、撮影地となったザルツブルグに留学していた髙橋さんは「留学中はピアノの練習ばかりしていて実は映画を観ていないんです…」と言うと、みなさん「ええっ?」と意外な様子でした。

終盤は古今の日本の歌が演奏され、そっと口ずさむ低い声が客席から聞こえてきました。特に『故郷』では会場の空気がざわめくような感じがあり、『涙そうそう』では涙を拭っていた方がありました。

 

 

終演後のお茶のみ会には演奏家も参加し、和気藹々とおしゃべりを楽しみました。93歳になるという方が「音楽はね、なんでも好きだね。聴くとね、こう、胸がすーっとするんだよ」と言いました。また別のご婦人もやはり「胸がすっとしてね、気持ちが晴れたわ」という言い方をしていました。何か言葉にできない気持ちを音楽が揺らして解きほぐしてくれるのでしょうか。そう語る人びとの表情はどこかしら明るくなっていました。

「次は『エリーゼのために』を聴きたいな」「放課後の学校で鳴っていたメンデルスゾーンを聞いてみたいねえ」といろいろなリクエストが出てきました。そのご希望に応えるためにもいつかまた来ますね。今日は楽しい時間をありがとうございました。