お知らせ

県営栃ヶ沢アパート「クリスマスコンサート」へ

2017.12.22

11月に打合せに伺い、これまで他の市町で見聞きしていた災害公営住宅と比べて、余りに巨大な建物群で驚きました。聞けば、301戸あり、現在は231世帯が暮らしているとのこと。75歳以上が85名お住まいであり、80世帯は一人暮らしの高齢者。自治会の見守り活動が欠かせない状況であることが分かりました。また、53カ所(!)の仮設住宅から転入してきているため、入居当初は知らない人同士であることがほとんどだったとのこと。2017年4月に自治会が発足し、その後、現在は毎朝集会所に集まって15分間、体操をしている人たちもいれば、ボランティアの訪問で、歌声喫茶、ゴスペルコンサート、カラオケなど、みんなで楽しむ時間や催しも、少しずつ増えてきたそうです。打合せには、紺野副会長はじめ、副会長さんほか役員さんが何人も集まってくださり「一人暮らしの高齢者や母子世帯が多く、クリスマスを前に、みんなで音楽を楽しむ時間が持てたらうれしい」とのご要望を伺いました。また、県営アパート住宅の住民だけでなく、周辺にある自立再建された家々の皆さんや、入居者のお友達も聴きに来て良いことにしたい、とのこと。まだまだ街の復興の途中にある陸前高田で、みんなで一緒に楽しむ場を持とう、と心配りされていらっしゃる自治会のみなさんのお気持ちが伝わってきました。

出演は、山形交響楽団メンバーによるBRASS TRIO”La Trinite “(ブラス・トリオ“ラ・トリニテ”)。トランペット松岡恒介さんは、日本音楽コンクール第3位の実力の持ち主。ホルン関谷智洋さんは、演奏だけでなく、曲目紹介やメンバー紹介も流暢に、また今回の多くの曲の編曲を手掛ける才能豊かな方、 トロンボーンの太田涼平さんは、一番の若手ながら山形交響楽団では首席奏者を務め、また山響一の“イケメン”として女子中高生のファンがたくさんいらっしゃる花形と言ってよい存在。今回、初めて「復興コンサート」に参加いただきましたが、お客さんとの距離の近さや、演奏に対してすぐに返してくださる皆さんの笑顔と拍手の反応を、とても喜んでくださっていました。そして、この栃ヶ沢アパートは、今回のツアーの最後の会場でもあります。

会場前の大きな大きなクリスマスツリーに迎えられ、会場に着くと、開放感溢れる大きな窓から、すぐお隣のコミュニティホールが見えています。音出しをしてみると、とても残響の長い、金管アンサンブル向きの部屋と分かって皆さんも一安心です。2日目の衣装は、緑・黄色・青のサテンシャツ。クリスマスに合わせて飾ってくださった壁飾りや、譜面台カバーの赤や白とも相まって、一気に楽し気な雰囲気となりました。

「もろびとこぞりて」から始まったコンサートは、「そりすべり」「what a wonderful world」、そして懐かしい童謡や唱歌が11曲も登場する「日本の歌メドレー」と続きます。間の楽器紹介では、ホルンの音の鳴る仕組みや、どうしてあのような形をしているのかを解き明かすために、関谷さんが「ホームセンターで買ってきた」というと”じょうご”とゴムホースが登場。ゴムホースをぐるぐるに巻、その先にマウスピースを取り付け、反対側の先に“じょうご”を取り付け、吹いてみると…確かに音が鳴りました!また、その吹いた状態のままで、音も変えることができるのでした。関谷さんは器用にファンファーレを吹いてくださり、皆さん、びっくり!指を動かすわけでもないのに、ホースの長さは変えていないのに、音が変わるのですね…。

後半は「俺たちは…やっぱり演歌も聴きたいなぁ…」という自治会長・副会長のリクエストに応えて、懐かしい曲の数々を用意してくださいました。「青い山脈」「男はつらいよ」「北国の春」と続くと、「北国の春」では、昨日のアバッセたかたにも聴きに来てくださった通称“ピンクさん”が、音楽に合わせて前で踊り出してくださいました!実はこれは、昨日の会場での約束通りでした。「北国の春、これ、高田音頭と踊ってよかったら、私踊ったのに!じゃ、明日も行くから、その時は踊るわね」と。お陰で、会場は大盛り上がり。客席の後ろのほうでは、前には出ずとも、座ったまま一緒に踊りだした方もいらっしゃいました。

「故郷」を歌うのはつらいけど、「北国の春」はいいんだよな、だれも傷つけないっていうかな、と、ボランティアコーディネーターを気仙沼で続けているムラカミサポートの村上さんに言われたことがあります。それは、歌詞カードを配らなくとも、ほとんどの年代の方が、大きな声で気持ちよさそうに、この歌を生演奏に合わせて歌ってくださる様子を目の当たりにする度に実感してきたことでした。それ以来、リクエストいただかなくとも、陸前高田と気仙沼では、出演者の皆さんに必ず演奏してほしい、とお願いしています。そして、出演者は必ず、お客様たちがこの歌を歌う時の、元気な歌声としみじみとした笑顔に、逆に励まされるのでした。ここ陸前高田出身の千昌夫さんが歌われたこの歌は、どんなときも優しく、春先のこの場所の風景や、思い出を思い起こさせてくれるのだと思います。

コンサートは終盤へ。「北国の春」で盛り上がった後には、中島みゆき「糸」を。そして、再び元気に「クリスマスメドレー」をみなさんにも歌っていただきました。盛大なアンコールには「ドレミの歌」。たった3人の演奏者とは思えない、豊かな音量と美しい音色やハーモニーに、すっかり心奪われた1時間でした。

終演後、名残惜しく会場を後にされた後、“ラ・トリニテ”のみなさんは、なかなか岩手まで来る機会もないので、帰りに寄っていきます、と「奇跡の一本松」へ。駐車場から一本松の下まで、現在は10分ほど掛かります。既に夕方の、冷たい風の吹きつける時間帯でしたが、後から、「やっぱり行ってよかったです」と関谷さんからメッセージが届きました。

この後、どのような街の形になっていくのか、まだまだ先の見えない陸前高田。とはいえ、人はそこに暮らし続けているのでした。本当にひとときの楽しみにしか、音楽はなることは出来ませんが、それでもまたご縁がありましたら、訪ねさせていただきたいと強く思った公演でした。“ラ・トリニテ”の皆さん、ハードなスケジュールでしたが、ご一緒いただき本当にありがとうございました。また、ぜひ、太平洋沿岸部各地でも、素敵なハーモニーを聴かせてくださいね。