お知らせ

若林西せせらぎ会「ひなまつりコンサート」

2018.3.7

仙台市若林区の復興公営住宅で2015年9月から「うたっこ会」を始めました。
復興センターでは音楽家をコーディネートし、
若林西市営住宅町内会せせらぎ会と協働してこの会を運営しています。

明るい日差しに風は冷たく、広瀬川の河畔では旅の途中の白鳥が羽を休めていました。今日は遠くの蔵王連峰がよく見えます。この若林西市営住宅は広瀬川のほとりにあるので、訪れるたび、広々とした風景に胸がすく思いがします。季節に一度、みんなで歌う「うたっこ会」をお届けしていますが、今日は年度末特別企画として「ひなまつりコンサート」を開きました。出演はいつもの通り、メゾソプラノ後藤優子さんとピアノ田村聡子さんのおふたりです。会場には15名のご婦人が集まり、偶然にもひな祭りらしく女子会となりました。

集会所には、道具がきっちり揃った豪華な七段のおひな様と折り紙で作ったひな飾り、さらに手づくりのつるしびななどが設えられて、とても華やかな空間になっていました。そこへ演奏家たちは鮮やかなピンクの濃淡のドレス姿で登場し、「あら~今日にぴったり!」「すてき~!」と参加者のみなさんも喜んでいました。
序盤はいつものように皆さんと一緒に歌うコーナーから。軽いウォーミングアップをして、季節にちなんだ3曲『うれしいひなまつり』『花』『贈る言葉』を歌います。

瀧廉太郎『花』では参加者の歌う主旋律に演奏家のお二人がハーモニーをつけてちょっとした合唱を楽しみました。実は一番と二番で音が異なるところがあり、そこは丁寧に繰り返し練習しました。さらに、「音程の高いところでは眉毛を5cm上げるつもりで歌いましょう!」「眉毛が顔からはみ出すぐらいに!」とアドバイスがあり、みなさん「あはは~」と笑いながら楽しそうに歌っていました。
その後はコンサート形式で演奏を楽しんでいただきました。演奏家はまず「どうぞお聴きくださいね」とおひな様たちにも一礼。そうして唱歌や童謡、昭和の流行歌、フォークソング、平成のヒット曲、そしてイタリア民謡まで、時代を超えたおなじみの名曲の数々が奏でられました。

唱歌のときは客席から口ずさむ歌声が自然に湧いてきましたし、みなさんはときには弾んで、ときにはゆったりと右に左に体を揺らしながら音楽にとっぷりと浸かるように聴いていました。窓から差し込む柔らかな日差しに包まれておだやかな時間が流れます。
今日のプログラムの中に、戦後すぐに流行した『花の街』『鐘の鳴る丘』の2曲がありました。焼け野原の日本に流れてきたこれらの歌は当時の人びとをなぐさめ、励ましたことでしょう。大切な人や町を失ってつらい気持ちを抱えながらも生きてゆくしかない人たちのそばに「歌」がありました。それはこの現在にも重なってくる光景です。この選曲に込めた後藤さんと田村さんの祈りにも似た気持ちはきっとみなさんに伝わったことでしょう。

終演後は町内会婦人部から「今年度もすてきな歌をありがとうございました!」と折り紙や紙粘土で作ったプレゼントが演奏家に贈られました。「来年度もまたよろしくね!」とたくさんの笑顔がありました。
この会の常連だった或る方がつい先日ご病気で亡くなられたとの話を伺い、震災からまもなく7年という年月を改めて感じました。その方のお誕生日はちょうどひな祭りだったそうです。今日の歌声を空の上で聞いていてくださったでしょうか。
人生は一期一会と言います。音楽を通じたこの出逢いのひとつ一つを大切に、これからも活動していきたいと思います。