お知らせ

塩竈「深まる秋のピアノコンサート」

2018.11.21

宮城県塩竃市で被災者支援を行なっている〈えぜるプロジェクト〉では、いくつかの復興公営住宅で「みんな音もだち」という歌の会を定期的に開催しています。そのスペシャル企画として年に何度か復興コンサートの依頼があります。「錦町住宅に寄贈された電子ピアノを活用してほしい」という町内会長さんからのご要望があり、今回はピアノコンサートをお届けしました。
出演は仙台を拠点に活動するピアニスト阿部玲子さんです。阿部さんには以前もここ錦町での復興コンサートにご参加いただいていますし、また、塩竈のおとなりの多賀城にお住まいということもあってご登場いただきました。
この住宅にお住まいの方はほとんどが高齢者なのだそうです。小雨ぱらつく空模様で出足が心配でしたが、ほぼ満席の賑わいとなりました。
コンサートはシューマン『トロイメライ』で幕を開けました。「私がピアノを始めたのは4歳からなんですが…」と阿部さんはご自身の歴史に重ねて演奏曲の解説をしました。子供の頃に「これを弾きたい!」と憧れていたというランゲ『花の歌』やパタジェフスカ『乙女の祈り』はお客さんもロマンティックな調べに身を委ねてうっとりと聴き入っていました。終わった瞬間、客席から「素晴らしいねぇ…」とため息が聞こえてきました。

「ピアノの道に進もうと思ったきっかけになったのはベートーヴェンです」と阿部さんは語りました。家族のことや聴力を失ったことなど、苦難多き人生を歩んだ大作曲家にみなさんすっかり感情移入した様子で、続く『悲愴』では一段と感慨深げな表情で聴いていました。
阿部さんの気取りのない様子と気さくなお話しに、みなさんすっかり打ち解けて演奏を楽しんでいました。手元をじっと見つめて聴く人、目を閉じて小さく頷きながら聴く人、さまざまです。

あるおじさまがぱっと手を挙げて「そのピアノとグランドピアノは鍵の数は違うんですか?」と質問を投げ掛けました。阿部さんは鍵盤やペダルなどピアノの仕組みを説明すると、多くの人が「へえ~」と感心していました。
コンサートの最後の曲は中島みゆき『糸』でした。人と人との縁という奇跡をうたうこの歌の詞を阿部さんはまず朗読し、「こうして皆さんにまたお会いすることができて、嬉しいです」と言い、少し涙声のようにも聞こえました。お客さんもこの7年間の別れと出会いを思い出していたかもしれません。名残惜しそうな熱い拍手に包まれて終演となりました。

その後、町内会長さんが「今日は音楽の力をしみじみと実感しました。こころ癒される思いがしました。ありがとうございます」と言いました。被災して移転して来た人びとを迎えて、地域コミュニティをどうすべきか、どうしていくべきかと苦慮し、何かと苦労の多いお立場だと推察します。ほんのひとときでもお役に立てたならさいわいです。

阿部さんご自身も「今日はひとりだったから心配だったんです」とほっとした笑顔を見せました。演奏家は一般的に演奏以上にトークが緊張するみたいですね。お疲れ様でした!
演奏家がお客さんを見送り、「また来ますね」「次は○○のスケルツォを聴いてみたいです」とリクエストもありました。ぜひ実現しましょう。また呼んでくださいね。