お知らせ

メモリアルコンサートvol.21

2019.1.11

音楽の力による復興センター・東北では今年度も
奇数月11日に「メモリアルコンサート」を企画制作しています。
東日本大震災の月命日にあたる日、市民のみなさんとともに、
音楽を通じてあの日に思いを馳せる場を設けたいと考えました。
(主催=仙台市/共催=せんだい3.11メモリアル交流館)

2019年最初のメモリアルコンサートはうららかな日和に恵まれました。昨年は災害の多い一年でしたが、今年はどうか今日のように穏やかであってほしいと願うばかりです。
さて、本日の出演はアンサンブルまっこいのみなさん(クラリネット菊池澄枝さん、バスクラリネット西峰里美さん、ピアノ鷲尾恵利子さん)です。開場時刻の前からお客さんが行列し、座席はあっという間にいっぱいになりました。
オープニングはアンダーソン『クラリネット・キャンディ』です。この作曲家ならではの軽快さと楽しさにあふれる一曲で、カラフルなあめ玉がころころ転がるように空気がぱっと明るくなったようでした。

曲のあとに澄枝さんは「この曲のもとになったと言われるキャンディを探してみたんです」とおもむろに袋を取り出しました。中からは真っ黒な物体が現れ、「うわ~」とお客さんも目を丸くしています。リコリスという、海外ではおなじみのスイーツですが、見慣れない私たちからすると一瞬ぎょっとさせられます。漢方薬のような独特の風味だそうです。想像したカラフルなキャンディとはだいぶ違いましたね。

西峰さんは「普段あまり見る機会がないと思いますので…」とバスクラリネットの解説をしました。その長さはよく見るクラリネットの2倍もあるそうです。重厚な低音から繊細な高音まで出せる音域の広い楽器だそうで、西峰さんはソロで『ロンドンデリーの歌』を演奏しました。何か遠い昔を思い出させるような調べに、お客さんはしんと耳を傾けていました。
鷲尾さんは「新春ということで…」と、宮城春雄『春の海』を独奏しました。和の一曲が入るとお客さんは一段とほっとくつろいだ様子になりました。流麗な旋律に身をゆだねるかのように目を閉じて味わう人の姿がありました。その瞼の裏には陽光きらめく穏やかな海の風景が浮かんでいたのではないでしょうか。

今回は特にクラリネットならではの音色をお楽しみいただきたいと、ポンキエッリ『il convegno』が初披露されました。イタリア語で「会議、会合」という意味のタイトルが示すように、クラリネット同士が会話あるいは討論するかように掛け合い、かなりの数の音符のラリーと追いかけっこが展開していきます。めくるめくような、かつ息の合った演奏に「わぁ~」と拍手が沸きました。今日はクラリネットの素晴らしさを発見できた人がたくさんいらしたのではないでしょうか。

アンコールでは『見上げてごらん夜の星を』が演奏されました。客席からはささやくような小さな歌声が聞こえてきました。目頭を押さえる人があちらこちらにいました。まもなく8年となりますが、思い出は風化することがないのでしょう。
コンサートの冒頭で澄枝さんは言いました。
「宮城、岩手、福島のあちこちを訪れる機会がありますが、被災地の状況は、より複雑になっていることを最近感じています」
そうですね、ひと言では言い切れないさまざまな場で何か大きな宿題が棚上げされたままになっている気がします。やがて元号も改まり、震災の経験を過去のものとするか未来への学びとするのか―みなさんはどうお考えですか?