お知らせ
閖上中央第二団地の新年会へ
- 2019.1.25
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仙台市の南にある名取市沿岸部の閖上地区は東日本大震災の津波で壊滅的な被害があった地域です。ここ閖上中央地区は約6mのかさ上げ工事を経てのち集合型住宅と戸建て住宅が建てられ、昨年12月にようやく鍵の引き渡し式が行なわれました。今年5月には本格的な町びらきを予定しているそうです。今のところ食料品店や医療機関など日常生活に必要な商店や施設はまだない状態です。
閖上中央第二団地住民有志の会では住民が顔を合わせ交流する場として新年会を開くことになり、その機会に併せて復興コンサートをお届けにうかがいました。名付けて「新しいまちの新年コンサート」、出演はジャスミン・トリオ(フルート櫻井希さん、クラリネット菊池澄枝さん、ピアノ鷲尾恵利子さん)です。
復興コンサートではよくあることなのですが、新しい町であるため会場の周辺はこれといった目印がなく、住所も当座の記号のようなものなので車のナビもお手上げです。演奏家のみなさんはちょっと迷いながらなんとか到着しました。この集会所は昨年9月に完成したばかりで、東京の支援者から寄贈された立派な電子ピアノがあり、安心して演奏に臨めました。
小雪がちらつく寒い晩でしたが、たくさんの人がいらして満員。コンサートはエルガー『愛の挨拶』で幕を開けました。華やかなドレス姿の3人が登場すると、客席から「まあ~…」とため息が聞こえてきました。
菊池さんは「さきほど日和山に立ち寄って手を合わせてきました」と話し始めました。
「復興が進み、町の様子もどんどん変わっていきますが、まだまだ変わっていないこともたくさんあることを忘れてはいけないと思いました。そんな中で、私たちの演奏で少しでも楽しいひとときをお過ごしいただければと思います」
続いてはウィーンの新年に欠かせないというヨハン・シュトラウス『トリッチ・トラッチ・ポルカ』です。トリオの軽快な掛け合いでさらにぱっと明るい雰囲気になりました。「この曲はご婦人方のおしゃべりを表したものだそうです」との解説にみなさんは「なるほどね~」とうなづいていました。鷲尾さんは「寄贈されたピアノがあると伺ったので、ピアノと言えばこの曲かな、と思いまして…」とベートーヴェン『エリーゼのために』を独奏しました。至近距離での生の演奏だと味わいが深まります。このようにしっかり演奏されるときっとピアノも嬉しいことでしょう。お客さんもぐっと集中して聴いていました。
櫻井さんは新年にちなんで宮城道雄『春の海』を選んできました。本来は尺八と琴で演奏される曲ですが、フルートとピアノでのアレンジもとても素敵でした。尺八の枯れたような息吹の音色がキラキラ光るフルートから聞こえてくるのは不思議な感じもしますが、かそけき陰影と侘び寂びがある演奏で、みなさんしみじみと聴き入っていました。海辺の町の人びとにはなおのこと染みるものがあったかもしれませんね。
後半は日本の唱歌や演歌、歌謡曲などをお客さんに歌っていただきながら賑やかに進みました。アンコールは『いつでも夢を』です。「お持ちなさいな、いつでも夢を」という歌詞がこれから新しい町づくりをしていく住民のみなさんへの励ましのようでもあります。大きな拍手とともに和やかに終演となりました。
その後の新年会には演奏家も参加して住民の皆さんと交流しました。地区のご婦人方が早くから準備していたごちそうの数々が並びます。世話好きのおばさまに「これ食べた?」「これも食べて!」とどんどん進められて演奏家は嬉しい悲鳴をあげていたようですよ。
宴はたけなわ、名残惜しいのですが、私たちはお先に失礼することにしました。「また来てね!」「待ってるから!」と見送ってくださいました。はい、またうかがいますね。
外へ出ると、はるか遠くに街の灯りがきらめいて見えました。冷たい風がぴりっと身を引き締めます。見送りにいらした或る方が「ここ、何もないから風が強くてねえ…」と苦笑しました。
始まったばかりのこの地区が街灯りきらめくようになるのはまだだいぶ時間が掛かるかと思いますが、どうぞお互い助け合って、住みよい町をつくっていってくださいね。