お知らせ

美田園北「春のコンサート」

2019.3.28

名取市美田園地区にある美田園北住宅は集合型の災害公営住宅と防災集団移転した戸建て住宅からなる団地です。沿岸部の閖上や北釜、下増田地区から避難した人たちが主に暮らしています。
プレハブの仮設住宅の頃からの住民交流を途絶えさせてはいけないと、民生委員のUさんは月に一度のおしゃべりサロン「いぐすぺ」を開催しています。
「いぐすぺ」とはこの土地の言葉で「行きましょう」の意味。みんなで誘い合って集えるようにとの気持ちが込められています。
今日は「春のコンサート」をお届けにいきました。出演は仙台フィルの首席オーボエ西沢澄博さん、同じく仙台フィルのチェロ山本純さん、そしてピアノ藤井朋美さんのトリオです。西沢さんは2014年に美田園のプレハブ仮設住宅で演奏をしたことがあるご縁で再登場ねがいました。当時とはだいぶ景色が変わりましたね。
開場時刻よりだいぶ前から人が集まり始め、相当数の人が廊下や玄関に腰掛けてリハーサルが終わるのを待っていました。用意した席を上回る人数で、担当のUさんは「いつも来てない人が今日は来ているよ!」と喜んでいました。

プログラムは『愛の挨拶』『白鳥』などおなじみのクラシック音楽やと日本の唱歌やわらべ歌を中心としたものでした。演奏の合間には西沢さんと山本さんがそれぞれの楽器についてわかりやすく解説をして、みなさんは「へえ~」と興味をもって聴いていました。
最初は再演列に座ることを恥ずかしがっていた方たちも、間近で見る楽器やトークにすっかり惹き込まれていました。

バッハのフルートソナタでは電子ピアノの音をチェンバロに変えて演奏し、バロック音楽の雰囲気を楽しんでいただきました。宮廷のサロンコンサートはこんな感じなのでしょうか。華やかながら温もりある調べにみなさんはうっとりと聴き入っていました。

オペレッタ「メリー・ウィドウ」から『二重唱』を演奏するときに、ラブストーリーの話から発展して、山本さんが「もし家で旦那さんが退屈しているのなら、こういうところに連れ出してきてくださいね!」と言いました。たしかに今日の参加者も女性ばかりです。これはどこに行ってもそうですが、男性の参加がとにかく少ないのです。男性の方が引きこもりや孤独死のリスクが高いと言われていて、大きな課題の一つとなっています。

 

最後は四季折々の唱歌をみなさんに歌っていただきました。その中で『我は海の子』がありました。ここで歌われる光景は昔の閖上を思い出させます。

終演後のお茶のみ会には演奏家も参加し、交流を図りました。
或る人は津波から命からがら逃げたときのことを語り、或る人は震災から現在に至るまでに見舞われた数々の不幸について話したそうです。内容は重いものですが、こうして誰かに話すことでそのつらさや悲しみを克服してゆくのだろうと思われます。少なくともここに集っているおばさま方は元気そうにお見受けしました。それだけに男性陣が気がかりです。

お昼になって茶話会はお開きとなり、出口に向かうみなさんは笑顔で演奏家に握手を求めていました。
「楽しかったねえ」「楽器のことがわかって、面白かった」「また来てけさいね」
お楽しみいただけたようで何よりです。またお会いしましょう!