お知らせ

南相馬・原町「ゆいゆい広場」へ

2019.3.27

南相馬市原町区福祉会館で開かれる被災者・避難者サロン「ゆいゆい広場」へ、仙台フィルメンバーによる木管五重奏団と伺ってきました。メンバーは、オーボエの木立至さんをリーダーに、フルート副首席奏者 芦澤暁男さん、クラリネット鈴木雄大さん、ファゴット海野隆次さん、ホルン首席奏者 須田一之さんです。オーボエの木立さんは、この原町の小学校に指導に来ていたこともあるそう。相馬地方は昔から、仙台とは心理的にも距離の近い町です。

この3月、5カ所ある南相馬市内の復興公営住宅に「復興コンサート」をお届けしました。その、現地コーディネートを担った特定非営利活動法人みんぷくから、南相馬市社会福祉協議会をご紹介いただき、今回の依頼に繋がりました。コンサートのタイトルを、社協のみなさんで考えていただいたところ「雲雀ヶ原を駆け抜ける五重奏~仙台フィルによる平成最後の調べ~」と付けてくださいました。なんとも、相馬・野馬追いの町らしいタイトル、そして間もなく平成の時代も幕が下りるのでしたね。

南相馬市は南から小高(おだか)区、原町区、鹿島区に分かれています。小高区は平成28年7月に避難解除となりましたが、それまでは原発事故の影響で全区域が避難対象でした。また原町・鹿島区も津波被害により家を失った方が多くいます。その後、仮設住宅、みなし仮設住宅(借り上げ住宅)、災害公営住宅に暮らしている皆さんや、小高区に自宅を残したまま、様々な事情から、小高には帰らずに原町に住み続けることを選ばれた方たちが集うのが、この定例サロン「ゆいゆい広場」です。月に2回、よその人には口にしにくい苦労を分かち合える者同士で顔を合わせ、近況を報告し合うこの時間を、みなさん、とても楽しみにしていらっしゃるとのこと。冬の寒さが緩むこの時期に、みんなで音楽を楽しめたら嬉しいです、と依頼をいただいたのでした。

 コンサートは、中山晋平さんの「シャボン玉」〜「うさぎのダンス」で懐かしく、楽しげに始まりました。オーボエの木立さんをはじめとして、みなさん演奏はもちろんのこと、それぞれの楽器の紹介には、ひと工夫もふた工夫もお楽しみを用意してくださいました。芦澤さんは、小さな栄養ドリンクの瓶をつかって、フルートの音の鳴る仕組みを。そしてメンバー全員で、瓶の合奏による「カモメの水兵さん」。続くオーボエとファゴットのダブルリード属の楽器では、ストローを使った、草笛の要領で音の出るリードの説明が。そして再び、ほかの楽器の方も巻き込まれて、ストロー合奏による「カモメの水兵さん」。これは見た目以上に難しいらしく…。プロのみなさんでも、さすがにストローはうまく吹けたり吹けなかったり…と、みなさん、本気でストロー笛に立ち向かわれる様子がまた、なんとも言えずに笑いを誘いました。

 ホルンの須田さんは、ビニールホースとじょうごを使って、簡単ホルンの作り方を。何重にも巻かれているホルンの管は、長く伸ばすと写真のホースと同じ長さがあるそうです。作ってみるだけではなく、ホースにマウスピースをつけて、実際に音も鳴らしてくださいました。クラリネットの鈴木さんは、客席まで下りてきて何やらスタンドを机の上にセッティング。シュライヤー作曲「だんだん小さく」という、演奏に合わせて楽器がだんだん小さくなっていってしまう一曲を。楽器がだんだんばらばらに分解されていくので、お客さんはびっくりです。

 そろそろ聞いてばかりでは、ということで、芦澤さんがアイリッシュ音楽で使うティンホイッスルを取り出すと、「幸せなら手をたたこう」が始まりました。普通のテンポで、遅く、速くと、よく知っている曲ですが、さまざまなテンポに合わせての手拍子は、なかなか頭を使います。「蘇州夜曲」「上を向いて歩こう」、演歌メドレー「津軽海峡・冬景色〜愛燦々」など、後半はおなじみな曲がつづき、最後には木管五重奏のために書かれたイベール作曲「三つの小品」より第一曲を。さきほど草笛ならぬストロー笛に悪戦苦闘されていたみなさんが、本来の楽器を構えて、流石としか言いようのない美しい音色と息の合ったアンサンブルを聴かせてくれました。

最後にはアンコールとして「見上げてごらん夜の星を」を、みなさんにも歌で参加していただきました。さすが民謡の盛んな相馬地方。調子のよい歌声があちらこちらから聴こえてきました。演奏者のみなさんの、「お客さんに喜んでほしい」「せっかく来てくださったのだから、楽しんでいってほしい」というサービス精神とエンターテイナーぶりを、余すところなく見せていただいた濃密な1時間でした!