お知らせ

田子西「うたカフェ♪」_5月

2019.5.17

仙台市宮城野区にある復興公営住宅の田子西市営住宅では
町内会主催のサークル活動として、この住宅とその周辺にお住まいの方々の
交流の場「うたカフェ」を2014年10月から始めました。
昔なつかしい歌声喫茶にヒントを得て、みんなで歌い、
おいしいコーヒーとおしゃべりを楽しもうという趣向です。
復興センターでは仙台オペラ協会と協働し、音楽リーダーをコーディネートしています。
(仙台市「音楽の力による震災復興支援事業」)

季節はすっかり初夏。日なたを歩いていると汗ばむほどで、吹き抜ける風が心地よく感じられます。
集会所の目の前にある藤棚ではちょうど藤の花が見頃を迎えていて、爽やかな風に花房を揺らしながら甘い薫りを漂わせていました。町内会長さんも「みんなで手入れして、きれいに咲かせることができました」と目を細めて藤の花を眺めていました。
さて、元号が令和になって最初のうたカフェは、これまで多くの要望をいただいていた演歌特集をお送りします。いつもと一味違った選曲に、仙台オペラ協会の松本康子さんと岩瀬りゅう子さん、ピアノの富樫範子さんは入念なリハーサルをして準備を整えていました。今日は常連さんがお友達を連れてきてくれたり、ご近所の福祉施設から参加してくれた方がいたりで会場は満員!さっそく「喫茶ひこ」のマスター西垣信彦さんが淹れたコーヒーをいただきながら、あれこれとおしゃべりに花が咲いていました。

 

演歌特集最初の曲は『無法松の一生』。みなさん待ちかねていたのか、1曲目から大きな声で歌ってくれました。演歌といえばなんといっても「こぶし」がポイントですが、あの微妙な音の上下を表現するのは難しいもの。すると岩瀬さんが「私の動きに合わせてこぶしをきかせてください」と、握ったこぶしを大きく動かして音の上下を示してくれました。それに合わせて音を震わせてみれば、ずいぶん様になってきたようでした。
続く『舟唄』では、歌う前に松本さんから「最初は歌うというより、お酒を飲みながら語っている感じで」とアドバイスがありました。すると薄暗い酒場の情景が見えるような、実にしみじみとした歌い出しに。八代亜紀さんにも負けないくらい情感たっぷりに歌い上げました。

 

最後に歌ったのは『天城越え』でした。改めて歌詞を朗読してみるとなかなか壮絶な内容で、「すごい歌詞ねぇ」ざわめきが広がります。演歌には恋愛のいざこざが題材になっている曲が多いですが、考えてみればオペラにもそういったテーマが多く取り上げられていますね。「演歌とオペラにはつながるところがあるかもしれませんね」という松本さんに、みなさん深々と頷いていました。
この曲でも「初めは感情を押し殺すように、音程が上がるにつれて気持ちも盛り上げて!」と歌い方のアドバイスがありました。ここまで演歌の世界に浸ってきたみなさん、最後の総仕上げとばかりに熱唱です。歌い出しは切々と、後半は感情の昂りをぶつけるように、と曲の抑揚に合わせて歌い方を変えていく様子に、音楽リーダーもびっくり。歌い終わると、みなさん「気持ちいいねぇ!」と晴れ晴れとした笑顔を浮かべていました。
しかし何といっても、この日もっともパワフルだったのは松本さんでした。演歌なら、普段歌っているオペラの曲ではタブーとなっている歌い方ができるから嬉しくて、とのこと。そんな松本さんのテンションに引っ張られ、みなさんの声もどんどん大きくなっていくようでした。

 

日本の演歌を思いっきり熱唱した後は、オペラの調べに耳を傾けます。
岩瀬さんは「シャモーニのリンダ」より『私の心の光』、松本さんは「コジ・ファン・トゥッテ」より『岩のように動かず』という曲を披露してくれました。先ほどまでみなさんと一緒にこぶしを回していたお二人ですが、今度はオペラの歌唱技法を駆使して歌い上げます。集会室の空間いっぱいにあふれる歌声に、ある人は目を閉じて、ある人はうっとりとした表情で聴き入っています。曲が終わると大きな拍手が沸き、なかなか止みませんでした。

 

思い切り歌い、音楽リーダーの素晴らしい歌声を聴いたみなさんはニコニコしながら集会所を後にします。今日が初参加だった女性は、「私すっかり松本さんのファンになっちゃった!」と弾けるような笑顔で語ってくれました。楽しんでいただけて何よりです。来月もぜひご参加くださいね。