お知らせ

メモリアルコンサートvol.24

2019.10.11

音楽の力による復興センター・東北では今年度も
偶数月11日に「メモリアルコンサート」を企画制作しています。
東日本大震災の月命日にあたる11日に、市民のみなさんとともに、
音楽を通じてあの日に思いを馳せる場を設けたいと考えました。
(主催=仙台市/共催=せんだい3.11メモリアル交流館)

1カ月おきに開催しているメモリアルコンサートの日ですが、今日はあいにくの空模様。超大型台風の接近に伴い各地でイベントの中止が相次いでいるためか、2件ほど「今日のコンサートはありますか?」とお問い合わせがりました。雨でお出かけを躊躇される方が多いかと思われましたが、リハーサルのときから聴いていてくださった方を始め、たくさんの方にお集まりいただきました。
本日のメモリアルコンサートですが、実は今年の夏にメモリアル交流館にやってきたばかりのピアノのお披露目コンサートでもありました。こちらのピアノ、もともとは2012年に「被災地へピアノを届ける会」から仙台市内のフリースクールに寄贈されたものでした。そちらが閉所するにあたり、そのピアノが震災の記憶と経験を後世に伝える場で再び美しい音色を響かせることを願ってメモリアル交流館へと贈られたのです。

そんなわけで、本日ご出演いただくクラリネット叶光徳さん・ピアノ阿部玲子さんのお二人はピアノが大活躍する曲をたくさん用意してきてくれました。
登場して最初に演奏されたのは『鈴懸の径』。叶さんの「私よりみなさんのほうがよくご存知の曲でしょうか」という言葉通りお好きな方が多かった様子で、嬉しそうな表情で聴いている方が何人もいらっしゃいました。
今日が初舞台となったピアノの音をたっぷりお聴きいただこうと、ピアノのソロ曲も用意されていました。同じ会場で2016年に電子ピアノを使って演奏している阿部さんは、電子ピアノとアコースティックピアノの違いについて、安定した音が出せるものの微妙なニュアンスの違いを出しにくい電子ピアノに対し、アコースティックピアノは1つ1つの音の出し方にも変化がつけられるので、表現がより豊かになると解説してくれました。それぞれのピアノに良さはあるのでしょうが、本日演奏してくれたショパンの『ノクターン第20番(遺作)』やバダジェフスカの『乙女の祈り』の繊細な調べは、やはりアコースティックピアノならではのものなのだと感じました。

続いては叶さんと阿部さんのお二人で、クラリネットのために作曲されたシューマンの『幻想小曲集』より第一楽章・第三楽章を演奏。ゆっくりとした調子で始まった曲が終盤に向かうにつれて勢いを増していくのにつられ、お客さんもどんどん曲に引き込まれていったようです。今日の客席はいつもより男性の比率が高かったようですが、じっと目を閉じて曲の世界に浸っている方が多かったのが印象的でした。
再び阿部さんがソロで演奏したのはベートーヴェンの『ピアノソナタ第8番(悲愴)』。この曲について叶さんが、「震災後しばらくは楽器を演奏する気になれませんでしたが、その月末にどうにか開催できた音楽教室の発表会でこの曲を演奏して、涙が止まらなくなった思い入れのある曲なんです」とご自身の経験をお話してくれました。

他にもピアノの力強い調べが印象的なシベリウスの『フィンランディア』や、叶さんと同じように震災後ピアノを弾いていいのかと迷っていた阿部さんが演奏家として、またいち被災者として力をもらった曲だという『ハナミズキ』、会場のみなさんと一緒に歌った『夕焼け小焼け』『紅葉』など、クラシックから歌謡曲、唱歌までさまざまな音楽が次々と登場しました。お客さんはリズムに合わせて体を揺らしたり、くつろいだ表情で音に身を委ねていたりと、それぞれに豊かな音楽の世界を楽しんでいました。
クラリネットとピアノが代わる代わる主旋律と伴奏を奏でた『愛燦燦』、そしてアンコールの『赤とんぼ』まで全12曲、盛りだくさんの1時間が終わり、叶さんと阿部さんに大きな拍手が贈られました。

 

 

ピアノのお披露目も無事に終わり、メモリアル交流館の職員の方もほっとした様子です。このピアノがこれからどんなふうに活用されていくのか、とても楽しみですね。
次回のメモリアルコンサートは12月11日に開催します。みなさまのお越しをお待ちしております。