お知らせ
鳴瀬サロン、故郷に帰る
- 2019.12.14
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宮城県東松島市には東日本大震災の津波で甚大な被害がありました。多くの人が他地域に避難し、そのまま移住した人もいます。かつて鳴瀬地区にお住まいで他の町に避難した方々は同郷人が集い交流する場として「鳴瀬サロン」を仙台市内で開いてきました。毎月一回の活動を重ねて、まもなく90回目を迎えようとしています。
復興センターでは2014年から毎年12月に復興コンサートをお届けしてきました。今年は、いつも会場としていた仙台市内の市民センターが改修工事で使えなくなったため、東松島市の野蒜ケ丘中央集会所で開催することになりました。言うなれば、鳴瀬サロン初めての里帰りです。事務局の髙橋さんから「地域の人たちにも呼びかけて、みんなで一緒にクリスマスコンサートを楽しみたいと思います」とご依頼をいただきました。
会場にはおよそ40名の人があつまりました。鳴瀬サロンメンバーの中にも「初めてこの集会所に来たわ」「こんなに立派なんだ、すごいねえ」と感激していた人がいました。集会所だけでなく、町全体がきちんと整備され、おしゃれにデザインされている印象を受けました。隔世の感がありますねえ。
出演はソプラノ齋藤翠さん、フルート山田みづほさん、ピアノ掛田瑶子さんのトリオです。プログラムはクリスマスにちなんだ曲のほか唱歌や歌謡曲などで構成され、肩の力を抜いて気軽に愉しめる内容でした。
中盤で、観客のみなさんと一緒に『七つの子』『旅愁』『きよしこの夜』を歌いました。みなさん大きな声で歌ってくださり、中にはハーモニーをつけてくださる方もいて盛り上がり、ほかほかと温かな雰囲気になりました。
今日のトリオは数年前にもこの野蒜地区を訪れて演奏しています。当時はまだプレハブの市民センターでのコンサートでした。掛田さんは「同じ町とは思えませんねえ…」と、風景の変容ぶりに驚いていました。
みづほさんが「最近、いい楽譜を仕入れたんですよ…」とほくそ笑みながら吹き始めたのは『天城越え』『津軽海峡・冬景色』でした。演歌とフルートは相性がいい様子ですね。切々とした調べにのって、東北の寒々しい風景が目に浮かびます。客席から口ずさむ声が聞こえてきました。
翠さんは震災からのこの8年に思いを馳せ、「いろいろな人たちとの出会いがあり、時を重ねて今があることに感謝したいと思います」と喜納昌吉『花』を歌いました。「泣きなさい、笑いなさい」と人の悲しみも受け容れてくれるこの歌に涙ぐむ人も多くいました。
アンコールはなんと東松島弁の『おおシャンゼリゼ』です。「まぢをあるぐ~こごろかるぐ~」と、やたらに濁点の多い歌にみなさん大爆笑。翠さんはサビを「お~野蒜さ~♪」と替え歌にして歌い上げ、やんやの拍手を浴びました。翠さんはまさにここが地元なので、地域の方々とこうして音楽で交流できる喜びを全身で表しているようでした。
終演後、鳴瀬サロン事務局の髙橋さんが「窓の外に新しい野蒜の町が見えていて、それを見ながら演奏を聴いていたら涙が止まらなくなりました」と言いました。野蒜に帰った人、帰らなかった人、帰れなかった人、それぞれいらっしゃることと思います。ほんの一時はありますが、かつての同郷の人たちがこうして集まり、明るい時間を持てたことは良かったなと思います。多くのお客さんから「また来年も来て!」と熱い言葉をいただきました。はい、また呼んでくださいね。どうぞよいお歳をお迎えください。