お知らせ
田子西「うたカフェ♪」_12月
- 2019.12.20
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仙台市宮城野区にある復興公営住宅の田子西市営住宅では
町内会主催のサークル活動として、この住宅とその周辺にお住まいの方々の
交流の場「うたカフェ」を2014年10月から始めました。
昔なつかしい歌声喫茶にヒントを得て、みんなで歌い、
おいしいコーヒーとおしゃべりを楽しもうという趣向です。
復興センターでは仙台オペラ協会と協働し、音楽リーダーをコーディネートしています。
(仙台市「音楽の力による震災復興支援事業」)今日の田子西は風こそ強く吹いていますが、降り注ぐ日差しのおかげか寒さはあまり感じませんでした。ここ最近のうたカフェは毎回初参加の方がいらしてくれますが、今日も「お友達に誘われて・・・」という方が何人もいらしてくれました。町内会長さんが市営住宅にお住いの方以外にも広くお知らせしているおかげで、うたカフェの評判はずいぶんと広がっているようです。おかげさまで会場はあっというまに満員になりました。
いつもはみんなで楽しく歌っている「うたカフェ」ですが、今回は特別企画「年末恒例 スペシャル★コンサート」をお届けします。スペシャルということで、音楽リーダーを務める仙台オペラ協会のソプラノ松本康子さんと岩瀬りゅう子さん、ピアノの富樫範子さんは美しくドレスアップした姿で登場。3人が会場に姿を現すと、客席からは黄色い歓声が上がりました。プログラムの最初はヴィヴァルディの『グローリア』より2曲。二重唱で『我らは主を讃え』、そして松本さんの独唱で『神なる主、天の王者』が披露されました。のっけからの宗教曲に、参加者は一気に音楽の世界に引き込まれていきました。続いて子守唄のなかから、岩瀬さんがブラームスの『子守歌』、松本さんはフォーレの『ベルスーズ』を選曲しました。曲が作られた国は違えど、子守唄のメロディは不思議と心を落ち着かせ、安らかにさせてくれます。参加者もゆったりとした調べに身を任せるようにして音楽を楽しんでいました。
子守唄ですっかりリラックスした参加者を前に、松本さんが「このタイミングで『誰も寝てはならぬ』を歌います!」と宣言して笑いを誘いました。プッチーニのオペラ『トゥーランドット』の中でも特に著名なアリアですね。オペラ歌手が本気で歌うオペラアリアは集会所いっぱいに声が響くようで、みなさんその圧倒的な歌声にうたれたように聴き入り、曲が終わるとやんやの拍手が沸きました。特別企画といえど「うたカフェ」なので、もちろんみんなで歌うコーナーもありました。今日歌うのは『ジングルベル』と『青い山脈』の2曲。クリスマスソングと昭和歌謡という不思議な組み合わせですが、実はこの2曲は「♪チャンチャンチャ~ン ♪チャンチャンチャ~ン」という曲の始まりが似ているんです。松本さんが以前見たテレビ番組では、その冒頭2小節のあとにどちらの曲のメロディを続けるかは年齢によって分かれると言っていたとか。「若い方はジングルベル、お年が上の方は・・・」という松本さんの言葉に、『青い山脈』の前奏を口ずさんでいた会場のみなさんは大笑いしていました。
いざ『青い山脈』を歌ってみると、みなさん声を出したくてうずうずしていたのか、大きな声で歌ってくれました。それでも岩瀬さんからは「顔を上げて、もっと若々しくいきましょう!」とのコメントが。意識してもう一度歌ってみると声がグンと若返ったようで、とてもキラキラした歌声になっていました。その勢いのまま『ジングルベル』を歌ってみると、こちらも楽しそうでいい感じ。ただし合いの手の「ヘイ!」の掛け声にはまだ照れが感じられたので、松本さんは「やるなら思い切りやりましょう!」と自分の拳を突き上げながらげきを飛ばしました。すると2回目の歌唱ではみなさんから全力の「ヘイ!」が聞こえ、その反応の良さに松本さんは「みなさんノリが良くて大好きです」とコメント。こうしたコミュニケーションがうたカフェの楽しいところです。
さてここでコーヒータイムです。「喫茶ひこ」のマスター西垣信彦さんが淹れてくれる薫り高いコーヒーは、うたカフェの大きな魅力のひとつです。今日は手作りのクッキーを差し入れてくれた方がいて、お茶菓子も豪華なクリスマススペシャルバージョンでした。
第二部開演の前に、富樫さんが久しぶりに手遊びを教えてくれました。まずは両手をそれぞれグーとパーにして、パーの手だけ前に突き出す格好にします。『ゆきやこんこ』の歌に合わせて左右交互にパーとグーを入れ替えるのが第一段階で、こちらは難なくクリアしました。第二段階では、前に出す手をグーに変更。それだけの変化ですが、途端に混乱する人が続出しました。さらに両手をそれぞれ昭和のチョキ(親指と人差し指を伸ばす)と平成のチョキ(ピースサイン)にして、『うさぎとかめ』の歌に合わせて交互に入れ替えることにも挑戦したのですが、これまた難題!指が3本立っていたり両手ともピースサインになっていたり・・・ヒーヒー言いながら指を動かす参加者の様子を見た富樫さんが「みなさん、自分の体ですよ!」と言うので、みなさん大笑いしていました。
頭の体操を挟みつつ、コンサート再開です。松本さんと岩瀬さんのお二人で、カッチーニの『アヴェ・マリア』を歌ってくれました。決して派手な曲ではないのですが、祈りが込められているような繊細な旋律が独特の緊張感を醸し出し、先程まで笑い声に包まれていた会場もシンと静まり返っています。
宗教的な音楽は体を強張らせますからね、といった岩瀬さんが「ゆったりとした気分で聴いてください」と最後に歌ったのは、ロイド=ウェバーの『ピエ・イエズ』。レクイエムとして作曲された曲ですが、その優しく包み込んでくれるようなメロディがどこかほっとさせてくれる曲でした。
プログラムに書かれた全ての曲が終わり、大きな拍手でコンサートが閉幕・・・と思いきや拍手の音は鳴り止まず、アンコールの合唱が起こりました。あまりない事態に、岩瀬さんが急いで楽屋から楽譜を持ってきて、3人で急遽打ち合わせ。その結果、まずは松本さんがカッチーニの『アヴェ・マリア』を披露。「アヴェ・マリア」という言葉だけを繰り返すカッチーニの曲に対し、こちらは聖母マリアの慈悲を求める人の悲痛な思いが歌われています。1日に2つの『アヴェ・マリア』を聴けるぜいたくに、みなさんうっとりとした様子で耳を傾けていました。
岩瀬さんが歌ってくれたのは、日本の童謡『花かげ』でした。作詞した大村主計が幼少期の自分の経験を書いたという曲で、桜吹雪のなかを嫁いでゆく姉を見送る幼い子の寂しい気持ちが、胸にしみこんでくるようです。客席でも目を細めながら口ずさんでいる方がいました。
歌う前に、岩瀬さんは「この曲はピアノが素敵なんです」と紹介しました。予定外の曲を弾くことになった富樫さんにはプレッシャーをかける形になりましたが、その演奏はさすがの一言でした。お嫁さんを見送るように舞い散る桜吹雪や、それを照らす月の光を思わせる繊細な調べや、ドラマティックな盛り上がりを見せる旋律に、聴き手からは感嘆の吐息がこぼれます。曲が終わると大きな拍手が起こりました。
今年のうたカフェはこれにて終了。町内会のみなさんのご協力もあって、田子西のうたカフェはますます盛り上がっていて、とても嬉しく思います。
来年もみなさんと楽しいひとときを過ごせれば幸いです。どうぞよいお年をお迎えくださいね。