お知らせ

「ほのぼの新春コンサート」いわきツアー②泉へ

2020.1.14

伊達LOW Strings(vc.吉岡知広さん、cb.名和俊さん/仙台フィル)との、新春いわきツアー。2カ所目の会場は平から30分ほど南にある、富岡町高齢者等サポートセンターいずみ(いわき市泉町)です。富岡町社会福祉協議会いわき支所からご紹介いただき、当日もスタッフさんが参加してくださって、お菓子やお茶のお振舞いをいただきました。昨年までお伺いしていた、富岡町生活復興支援センターいわき泉玉露交流サロンは、惜しまれながらも平成31年3月に閉所。毎年来てくださっていた方との再会は、もう叶わないのかな、と寂しく思いながらも、新しい出会いを楽しみに伺いました。

泉町は震災後、富岡町の大規模の仮設住宅が作られた他、いわき市内でも特に、多くの相双地区の方が避難、または移住された地域です。サポートセンターいずみは、(社福)光美会が富岡町から委託を受け、1階で通所介護事業所(デイサービス)を、2階は地域交流サロンとして、どなたでも気軽に利用できるフィットネスルームや、イベントを開催する多目的スペースがあります。定期開催しているサークル活動も、最近では40~50人が集まるという「うたの会」や介護予防運動教室「とみおか元気アップ教室」、「フラワーアレンジメント教室」など多彩なメニューが用意されています。今回のコンサートは、利用されている皆さんに声掛けしていただいた他、泉町内に5つある復興公営住宅へ、富岡町社会福祉協議会いわき支所のみなさんがチラシを配ってくださいました。泉町は、名和さんの出身である湯本高校からもほど近く、地元の方には親しみを持ってみなさんお待ちくださっているようです。

まずは、開場前に1階のデイサービスフロアで、利用者のみなさんへ2曲ほどのミニミニコンサートをお届けします。大きな楽器を携えて登場した伊達LOW Stringsのお二人を、みなさん大きな拍手で出迎えてくださいました。

演奏されたのはグノー作曲「プチ・スケルッツォ」、日本語にすると「小さな冗談」というほどの可愛らしい1曲です。利用者のみなさんもスタッフさんも、お二人の演奏が始まった途端に、心なしか見つめる瞳がきらきらと、また生き生きとされたように見えました。美しく豊かな音色と、お二人のぴったりと合わせた呼吸に、みなさんすっかり引きこまれていらっしゃる様子です。演奏が終わると「すごいね~!」と思わずスタッフさんが声を上げました。「つづいてはきっと皆さんご存知の曲だと思いますので、ぜひ元気に歌っていただけましたら嬉しいです」と吉岡さん。始まったのは昭和20年、終戦直後に大ヒットした「りんごの唄」です。幼い頃から耳に馴染んだ歌は、歌詞カードなどなくとも、みなさん、すらすらと歌詞が出てくるようでした。生伴奏で気持ちよさそうに歌う方、声は出なくても手拍子をしながら微笑まれる方、それぞれに楽しんでくださった様子でした。

2階に戻り、センター長の松岡さんのお話しから、いよいよ「ほのぼの新春コンサート」開演です。この時には既に満席、椅子に座れず、廊下でお待ちいただく方が10名近くという大盛況!演奏するお二人に、舞台へお入りいただき、その通路にも椅子を置いて、どうにかこうにか全てのお客様からお二人の姿を見ていただけるように…。

コンサートの冒頭は「春の海」で新年のご挨拶を。グノーの「プチ・スケルッツォ」に続いては、チェロの吉岡さんの独奏でバッハ作曲「無伴奏チェロ組曲第1番」より「プレリュード」を。テレビCMなどでも流れたことがあり、どこかで一度は耳にしたことのある曲。目の前の、たった一人の演奏から紡ぎ出される流れるような旋律と、音が発せられることへ意識を集中させる吉岡さんの緊張感が、その場にいる全員に伝わって、演奏が終わり吉岡さんが弓を下げると、深い感嘆のため息と、割れんばかりの拍手で会場はいっぱいになりました。

チェロとコントラバスが、どんな仕組みで音が鳴っているのか、楽器と弓には、どんな素材が使われているのか、丁寧な解説もあり、弓の手に持つ部分には、滑らないようにトカゲの革が使われていると聞いて「ええ~っ?!」という声も。後半ではお正月にちなんで「ふじの山」、そして「北風小僧の寒太郎」をみなさんの歌声とご一緒に。「うたの会」常連さんもいらしたと見えて、演奏されたお二人も驚くほどの大きな歌声が響きました。

終演後、吉岡さん、名和さんには、1階に降りてお客様をお見送りいただきました。すると、お見かけしたことのあるご夫婦の姿が…「今年も来てくれてありがとうね、楽しみにしていたんですよ!」と奥様。昨年まで、泉玉露交流サロンのコンサートにいらしていたお二人との再会は、私たちにとっても嬉しいものでした。

元、暮らしていた町への帰還が始まったところもありますが、帰還困難区域や、様々なご事情で帰ることのできる方ばかりではありません。また、帰ってもその後の生活や、ひとりひとりの健康が誰に保障されるわけでもありません。そのような状況の中で、避難・移住した土地で、皆それぞれの思いを抱えながらも、こうして顔を合わせて元気にいることを確かめ合い、励まし合いながら生きていくこと。そのことのささやかなお手伝いが、できていたら…と思います。

本公演を含むいわき市内4公演は、(株)菓匠三全様の助成をいただいて開催することができました。心より御礼申し上げます。

*福島民友新聞様に取材いただきました(2020年1月16日掲載)