お知らせ

メモリアルコンサートvol.26

2020.2.11

音楽の力による復興センター・東北では今年度も
偶数月11日に「メモリアルコンサート」を企画制作しています。
東日本大震災の月命日にあたる11日に、市民のみなさんとともに、
音楽を通じてあの日に思いを馳せる場を設けたいと考えました。
(主催=仙台市/共催=せんだい3.11メモリアル交流館)

記録的な暖冬となっている今シーズンですが、どういうわけか立春を過ぎてから冷え込む日が多くなりました。昨日の夜には仙台市内でもまとまった雪が降り、久しぶりの雪景色が広がりました。そんな状況でも会場に足を運んでいただいたみなさん、本当にありがとうございます。
メモリアルコンサートの会場となっているせんだい3.11メモリアル交流館の交流ホールには、1台のアップライトピアノが置かれています。これは2012年7月、「被災地へピアノを届ける会」から「フリースクールかがやき(現:NPO法人「煌の会」/仙台市宮城野区)」に贈られたピアノで、震災の記憶と経験を後世に伝える場での活用を願い、昨年の夏にメモ館に寄贈されました。
本日のメモリアルコンサートにご出演いただくのは、その「被災地へピアノを届ける会」のみなさん。ピアノの庄司美知子さんと吉田彩さん、ソプラノ萩原里香さん、そしてお話は作曲家の吉川和夫さんの4名です。

本日のコンサートは、祈りを込めた2曲から始まりました。まずは庄司さんと吉田さんの連弾によるバッハの『主よ、人の望美の喜びよ』。続いて庄司さんと萩原さんによりマスカーニの『アヴェ・マリア』が演奏されました。年が明け、3月が近づいてくると、もうすぐ9年前になるあの日を思うことが増えていきます。そんな思いに寄り添うような祈りの調べに、多くの方が目を閉じて耳を傾けていました。

 

2曲の演奏が終わったところで、「被災地へピアノを届ける会」の実行委員長を務めている庄司さんが、震災後間もない時期に南三陸町の歌津に演奏に行ったときのことをお話してくれました。津波で大きな被害を受けた地域の様子に「何をしに行くのかしら」と悩みながら会場に向かった庄司さんに対して、地域の方は「こんなことがあっても海を嫌いにはなれないから」と、海の歌を聴きたいとリクエストしたそうです。そのコンサートが終わったあと、小学2年生くらいの女の子が「届いたばっかりのピアノが流されちゃった」と声をかけてきました。庄司さんは「いつかまたピアノが弾けるといいな」と言った女の子の住所を聞いて戻り、吉川先生に相談したそうです。彼女のような子どもはきっとたくさんいる、その子たちのために何かできないかという思いが「被災地へピアノを届ける会」の活動を始めるきっかけとなりました。
同会の副実行委員長を務める吉川さんは、何の後ろ盾もない個人の集まりが全国から寄せられた寄付金だけで500台以上のピアノを寄贈した活動を振り返り、「一人ひとりの想いが集まってこうした活動ができたことは、本当にすごいことだと思います」と語りました。

様々な巡り合わせでメモ館にやってきたピアノには、たくさんの人の想いがこめられています。そんなピアノで次に演奏されたのは、中田喜直作曲『日本の四季』より「初秋から秋へ」「春が来て、桜が咲いて」、そしてブラームスの『ハンガリー舞曲第5番』。2曲とも庄司さんと吉田さんの連弾で演奏されました。連弾を間近で見るのは初めての方も多かったようで、みなさん興味津々の様子でお二人の手元を見つめていました。軽快で弾むようなリズムの『ハンガリー舞曲』が終わると大きな拍手が起こり、客席からは「あんべ(按配)よかったよー!」と東北式ブラボー!の声がかかりました。
今回ご出演いただいたみなさんは、震災後に気仙沼や大島、石巻を訪れてコンサートを開いてきました。その思い出を尋ねられた吉田さんは、大島から見た気仙沼港の景色が印象的だといい、地元の人の活気に、自分たちが逆に元気づけられたと語りました。

金子みすゞの詩に曲をつけた『むこうむこう』『ほしとたんぽぽ』では、優しさに満ちた歌詞が萩原さんの語り掛けるような歌声にのってじんわりと胸に沁みこむようでした。客席には、昼の星も冬の間は地中にあるたんぽぽの根も「見えぬけれどもあるんだよ 見えぬものでもあるんだよ」と歌う『ほしとたんぽぽ』を、小さく頷きながら聴き入っている女性がいました。
『故郷』『春の小川』『朧月夜』からなる源田俊一郎編曲の『ふるさとの四季』を歌う前に、吉川さんが「歌いたくなったらご一緒にどうぞ」と呼びかけましたが、やはり恥ずかしいのかみなさんしばらくは黙って聴き手に回っていました。ところが、曲の終盤に萩原さんが『故郷』の2番をアカペラで歌い出すと、会場から歌声が聴こえ始めました。初めはささやくように低く、小さかった歌声はだんだんと大きくなっていきます。それに気付いた萩原さんも歌いながら目を細め、歌い終わると「みなさんの声が聴こえてきて、すごく嬉しくなりました」と笑顔で語りました。

 

最後に『スタンド・アローン』、そしてアンコールに『小さな空』が披露された後、みんなで『花は咲く』を歌いました。先ほどはとても遠慮がちな歌声でしたが、今回は演奏家も驚くほど大きな声で歌ってくれました。歌いながら様々な思いが胸に押し寄せたのでしょうか、そっとハンカチで目元を押さえる女性や、グイッとこぶしで涙を拭う男性がいました。歌が終わり、ピアノの音の余韻が消えると、演奏家とお客さんの両方から暖かい拍手がわきおこりました。

 

終演後に出口でお見送りをする出演者に、お客さんは感想やお礼を伝えて帰っていきました。また、会場には元々ピアノが寄贈されたフリースクールの方もお越しだったので、たくさんの人と人との縁をつないでくれたピアノと一緒に記念撮影をしました。このピアノが、これからも素敵な出会いのきっかけになってほしいと思います。