お知らせ
郡山➀田村公民館「春まちコンサート in 田村」
- 2020.2.25
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雪のない2月。曇り空の下、郡山市田村町へ伺いました。福島県内4地域において、原発事故被災者コミュニティの創生・再生を支援する、特定非営利活動法人みんぷく郡山事務所から依頼をいただいての訪問です。出演は、山形交響楽団から、クラリネット本田有里恵さん、首席ヴィオラ奏者山中保人さん、チェロ久良木夏海さんの3名です。
久良木さんは、山響入団直後の2012年に、一度復興コンサートにご出演くださいました。また機会があれば、とお申し出いただき8年ぶりの出演です。本田さん、山中さんは、2019年、2018年に入団されたばかり。今回が初めてのご参加です。東北各地あちこちへ演奏に行かれる、忙しいオーケストラの活動の合間を縫って、とても珍しい楽器の編成でご参加くださいました。
この田村町には、ちょうど一年前に訪問した守山駅西団地があります。昨年のコンサートは、小さな集会所に素敵な音と笑顔がたくさん溢れました。「こんなに楽しいコンサートなら、もっとたくさんの人に聴いてほしいなぁ」とその時にも話されていた自治会長さん。今回は会場を広い田村公民館に移して、地域のみなさんにも楽しんでいただけることになりました。朝早く到着すると、既に守山駅西団地のみなさんが、会場設営中。おかげさまであっという間に終わりました。ありがとうございます!
この日は、近くにある田村町つつみ幼稚園の年長クラスの子どもたちも来てくれました。前半20分だけ、の予定でしたが、開演を待つ態度もみんな立派です。改めて園長先生に確認すると「たぶん、最後まででも、聴けるんじゃないかと思うんですが…」もちろんどうぞ!と嬉しい変更になりました。こんなに近くで演奏を聴くのは、きっと初めてかな?
いよいよコンサートが始まります。春らしいワンピースで登場したクラリネットの本田さん、チェロの久良木さん。長身の山中さんは、黒いお衣装です。まずは子どもたちに、と「となりのトトロ」に出てくる曲をメドレーで。「となりのトトロ」や「さんぽ」は、ついつい口ずさむ声も聴こえてきました。司会は本田さん、早速楽器紹介コーナーです。クラリネットは、フルートやトランペットといった管楽器に比べると、比較的新しい楽器なのだそうです。音色の紹介を兼ねて吹かれたのは「クラリネット・ポルカ」。ポーランドの民俗舞曲ポルカのリズムに乗せた、一度は聴いたことのある楽しい曲。本田さんの指が、とても早く動くのにも子どもたちの視線は釘づけでした。ヴィオラの山中さんが「この楽器の名前、知ってる人はいるかな?」と尋ねると、子どもたちは一斉に「ヴァイオリン~!」。山中さんはじめ、大人たちは苦笑しつつもヴィオラ、という名前と、ヴァイオリンより少し大きいことを教えてもらいました。山中さんは映画「天空の城ラピュタ」から「君をのせて」を。その低めの音域の、美しく豊かに歌われるメロディーに、みなさんへぇ~と感心された様子。ヴィオラの音だけを聴く、ということって、なかなかないですよね。最後、チェロの久良木さんは「チェロという楽器の大きさ、どのくらいだと思いますか?」と、幼稚園のお友達に手伝ってもらって背比べ。これはとてもわかりやすく、後ろのほうからも「へぇ~!」「結構大きいんだね!」とおしゃべりする声が。
その後は「一年生になったら」「うれしいひなまつり」を子どもたちに一緒に歌ってもらって、なつかしい童謡唱歌が続く「日本の歌メドレー」、そしてチャップリンの「スマイル」と続きます。「チャップリンの映画『モダンタイムス』を、私は今回初めて観たのですが、チャップリンが作ったのは、歌詞のない、曲だけの「スマイル」でした。後に歌詞が付け加えられ“笑っている限りはいいことがきっとある”と歌われているそうです」と本田さんが教えてくれました。
大人の皆さんとは福島縁の古関裕而作曲「高原列車は行く」をご一緒に。その後、フルート奏者で作曲家、また本田さんの御主人でもある荒川洋さんが、今回のコンサートのためにと作曲された「クラリネット、ヴィオラとチェロのための狂詩曲」が演奏されました。下記は、コンサートでも本田さんにご紹介いただいた、荒川さんがこの新曲に寄せたメッセージです。
「”Rhapsodie”pour clarinette,Alto et Violoncelle クラリネットとヴィオラ、チェロのための狂詩曲」
作曲:荒川洋 作曲日:2020年2月20日
この曲は、山形交響楽団のメンバーである、妻のクラリネットの本田有里恵、ヴィオラ奏者の山中保人氏、チェロ奏者の久良木夏海氏の初演の為に作曲した。狂詩曲(ラプソディ)が持つ「自由奔放な形式で民族的または叙事的」の意味合い通り、私達が持っている民族的で世俗的な視点から、現在の復興への心の葛藤を表現した。辛く大変な経験の合間も僕らは生き、様々な経験をして時間を過ごす。その思いは決して悲しみだけではなく、未来へ託すポジティブな感情へとつながる。ちょうど同時に編曲も依頼された「高原列車は行く」(古関裕而作曲、丘灯至夫作詞)の、古き良き時代の響きにインスパイアされた要素も多少取り込んだ。この日のために作曲してくださった、という思いがけない出来事にも、またどこか昭和の香りのする素敵な音楽にも、みなさんとても驚いた様子で聴き入っていらっしゃいました。数々の「復興コンサート」の中でも恐らく初めてのこと。仙台出身である荒川さんに、このような形でご参加いただけましたことは、思いがけなく、また有難い出来事でした。最後まで、静かに聴いてくれた子どもたち、終演後は演奏家と記念写真を撮ってお別れしました。