お知らせ
亘理「うたのひろば」_9月
- 2020.9.17
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復興センターではMorino花ccoのみなさんと協力して
亘理町で月に1回「うたのひろば」を開催することになりましたわ亘理町でのうたのひろばは、歌を楽しみたい地域住民の方と岩瀬さんが昨年10月に始めた会です。それから月に一度集まって歌を楽しんでいましたが、感染症拡大の影響で今年の2月を最後に活動を休止。その後様々な感染防止対策をとったうえで7月に再開し、今回からは復興センターも関わらせていただくこととなりました。
会場は亘理町中央コミュニティセンター。木のぬくもりが素敵なこの施設は、とにかく声がよく響きます。リハーサルでは仙台オペラ協会のソプラノ岩瀬りゅう子さんと松本康子さん、そしてピアノの阿部恵美子さんが入念に歌とピアノの音のバランスをチェックしていました。本日会場に集まってくれた参加者は11人。地域にお住いの方がほとんどなので、顔見知り同士にこやかに挨拶を交わしながら、会のスタートを待っていました。発声練習を兼ねたウォーミングアップでは、『汽車』『村祭』『どんぐりころころ』をそれぞれ振り付きで歌いました。最初に全員で1曲ずつ歌ったあと、参加者を3つのグループに分けて担当曲を割り振り、3曲を同時に歌うことに挑戦しました。「え、全部一緒に歌うの!?」と驚いていた方もいましたが、他のグループが歌う声につられでないよう、きちんと歌い切ることができたでしょうか。
歌のコーナー、最初の曲は『待ちぼうけ』。知っている曲だからこそ何となくで歌わず、内容をしっかり理解してどう歌うか考えて、と話してくれた岩瀬さんは、声の大きさを変えて歌に動きをつけることで気持ちを表現できるとアドバイスしてくれました。実際に歌ってみると、歌の中の起承転結がはっきりと感じられました。
『トロイカ』を歌うときも同じで、歌詞を繰り返す部分の歌い方に変化をつけると、より一層深みが増しましたようでした。
松本さんも『ここに幸あれ』の歌い方について、「女性のみなさんは主人公になったつもりで、色っぽく歌ってください」とアドバイス。その言葉に思わず吹き出した参加者でしたが、いざ歌い出すとなかなか様になっています。また、松本さんがここだけは意識して!と説明してくれたのが 、♪君を頼り~に をポルタメントを使って歌うことでした。ポルタメントとは、なめらかに徐々に音程を変えながら音を移していく演奏技法のことです。松本さんの熱いアドバイスの甲斐あって、参加者は上手にポルタメントをかけて歌っていました。教えるのは苦手なので、と言っていた松本さんでしたが、他の部分もワンフレーズごとに歌い方のアドバイスをしてくれたので、情感たっぷりに歌うことができました。
4曲目に歌った『ローレライ』は明治42年に近藤朔風による訳詞が発表された曲です。ほとんどの方がご存知の曲だったようですが、その歌詞を見てみると神怪き(くすしき)・魔歌(まがうた)など、すぐには読めない漢字がいくつも使われています。耳で聞くだけでなく、文字として読むことで、さらに曲への理解を深めて歌うことができたのではないでしょうか。フェルマータでたっぷりと歌い上げたみなさんの歌声を、岩瀬さんは「みなさんの声の力を感じて、感動でドキドキしてます」と称賛しました。歌う曲目は決まっているものの、進め方は岩瀬さんの気持ちが赴くままに任せるという「うたのひろば」。みんなで歌う曲はもう1曲残っていましたが、ここで岩瀬さんからの突然の指名により、先に松本さんが一曲披露することとなりました。
歌ってくれたのは『落葉松』。たった8行の短い詩を繰り返すこの曲は、不思議と人の心に深く染み入ってきます。また、音の響きがとても良いこの会場では、松本さんの声が頭の上から降り注ぐように聴こえてきて、その音楽に全身をどっぷりと浸らせているような感覚になりました。圧倒されるようなその歌唱に、みなさん身じろぎもせずに聴き入っていました。
その感動をパワーに変えて、最後に『てのひらを太陽に』をみんなで歌いました。すばらしい歌声に触発されてか、先程よりさらに良い声が出ていました。本当に歌うことは人を元気にしてくれますね。最後の締めくくりに、岩瀬さんが『夕日』を歌ってくれました。「ぎんぎんぎらぎら」で始まる有名な童謡ですが、ただの童謡ではありませんでした。阿部さんが弾くドラマチックな伴奏と緩急のついたメロディは、真っ赤に燃える夕日の力強さや、逆に今にも夕日が沈み切り、その光が見えなくなるまでのわずかな時間を思わせる静けさなど、一曲の中で様々な夕日の表情があらわれているようでした。オペラのように高らかに歌い上げて曲が終わると、予想していなかった形の『夕日』に、参加者からは感嘆の声と拍手が沸き起こりました。
様々な曲を楽しんだ「うたのひろば」は、大盛況で幕を下ろしました。ウォーミングアップを含めると8曲を歌い切り、さらに岩瀬さんと松本さんの素晴らしい歌声を楽しんだ参加者は、実にスッキリとした表情で会場をあとにしました。
この会のお世話をしてくれている方は、ご自身も歌の団体に所属して様々な慰問活動やイベントに参加していたなかで、人々を元気にする歌の力を実感したといいます。また、取材に訪れていた新聞記者の方は「久しぶりに生の歌を聴きました」と感慨深そうに話していました。
昨今の事情から生演奏、特に生の歌声に触れる機会は減ってしまいました。けれどこんなときだからこそ、生の歌声を聴いたり、大きな声を出して歌うことは、気持ちが明るく前向きになるための大きな力になると思います。これからも様々な工夫をしながら、音楽を楽しめる場をつくっていけたらと思います。