お知らせ

メモリアルコンサート vol.30

2020.12.11

音楽の力による復興センター・東北では
東日本大震災の月命日にあたる11日に、市民のみなさんとともに
音楽を通じてあの日に思いを馳せる場を設けたいと考え、
「メモリアルコンサート」を企画制作しています。
(主催=仙台市/協力=せんだい3.11メモリアル交流館)

今日は今年最後となるメモリアルコンサートを開催しました。時折雨がぱらつくこともある空模様でしたが、本日もありがたいことに満席で開演を迎えることができました。
出演はピアニストの鷲尾恵利子さん。鷲尾さんにはフルートの櫻井希さん・クラリネットの菊池澄枝さんと結成しているジャスミン・トリオのメンバーとして、また仙台フィルハーモニー管弦楽団のオーボエ奏者木立至さんとご一緒に、たくさんの復興コンサートにご出演いただいています。
鮮やかなブルーのドレスで登場した鷲尾さんが最初に演奏したのはショパンの『ノクターン』第20番でした。鷲尾さんは以前体調を崩してピアノを弾けなくなっていた時期に、演奏で体に負担がかからない曲を、とこの曲を選んで弾いてみたそうです。その際、切なく哀しげな旋律を弾いているうちに「このままピアノが弾けなくなってしまうんじゃないか」と気持ちが沈んでいったのですが、そのまま終盤に向けて明るくなっていくメロディを弾いていると、今度は「まだまだ弾ける!」と勇気がどんどん湧いてきたそうです。そのときの自分の変化を”憑き物が落ちたようでした”と語る鷲尾さんの笑顔に、音楽は聴く人はもちろん、演奏する人自身も元気づけてくれることを実感しました。
次に演奏したのは、鷲尾さんが小さい頃から大好きな曲だという『乙女の祈り』でした。ポーランドの作曲家テクラ・バダジェフスカによる曲で、日本では明治時代に伝わって以降多くの人に愛され、電話の保留音など様々な場面で耳にする身近な曲となりました(一方、作曲者の生まれたポーランドでの評価は低かったのだとか)。早い動きが特徴のこの曲を、鷲尾さんはまさに乙女らしく、とても可愛らしく弾いてくれました。会場の乙女たちも耳になじんだメロディを小さくリズムを取りながら聴き入っていました。台湾では『乙女の祈り』がごみ収集車のメロディとして使われているそうです。「こんなに素敵な曲をごみ収集車になんて・・・」という鷲尾さんのコメントに、会場からは笑い声が上がりました。

3曲目に演奏したのは、ポルト作曲『フライデーナイト・ファンタジー』。かつて金曜ロードショーという映画番組のテーマソングに使われていた曲で、鷲尾さんは仙台市内の若林区吹奏楽団と共演した際、トランペット・ピアノ・吹奏楽のために編曲されたこの曲を弾いたそうです。そのときはもちろんピアノパートだけ演奏した鷲尾さん。今日もピアノでメロディだけをきれいに弾くか、それとも一人でトランペット・オーケストラパートも弾くか直前まで悩んだそうですが、「ガンガン弾きたい!」と他パートも弾くことを決意。低音~高音域まできちんと鳴るようにと、普段は閉じている足元の響板も外して演奏に挑みました。
今日のプログラムで一番気合を入れている曲です、という言葉のとおり、その力強い演奏はあっという間に聴き手を曲の世界に引きこんでいきます。ピアノだけの演奏にもかかわらず、オーケストラのコンサートを聴いているような迫力と重厚さにみなさん圧倒されていたようです。終演後のアンケートにも「力強い演奏に励まされました」といった感想が書かれていました。
ガラリと雰囲気を変えて、朝ドラの「ひよっこ」と「エール」の主題歌も登場しました。古き良き昭和を意識してアコースティックなアレンジで弾いた『若い広場』からは優しい懐かしさを、ただただ楽しんで聴いてもらいたいという気持ちを込めたという『星影のエール』からはきらきらとした希望が感じられました。
プログラムの最後は『アメイジング・グレース』でした。神への感謝を捧げる曲として作られたというこの曲を、鷲尾さんは今日ここで会えたことへの感謝を込めて、と演奏してくれました。時折音がぶつかるような珍しいアレンジは、どこかクリスマスをイメージさせます。今年のクリスマスは例年通りの過ごし方が難しいかもしれませんが、ちょっとでも気分を味わえればという鷲尾さんからのクリスマスプレゼントでした。

アンコールに応えて演奏してくれたのは『群青』という曲でした。この曲は東日本大震災と福島第一原発事故の影響で同級生と離れ離れになってしまった福島県南相馬市の小高中学校の生徒と先生によって作られた曲です。その歌詞は遠い避難先から今なお戻ってこない同級生を思ったりする生徒の日記や作文、他愛ないおしゃべりを繋ぎ合わせたもので、子どもたちの本当の気持ちが率直にあらわれたものになりました。
鷲尾さんは「きっとまた会おう あの街で会おう」「また会おう 群青の街で」というという歌詞を紹介し、「私も、”みなさんとまた会えますように”という願いを込めて演奏します」と語り掛けました。ピアノに合わせて歌詞を口ずさむ人もいる中、たくさんの祈りと希望が込められた曲が会場に響きました。

何かと慌ただしい12月、短い時間ではありましたが、心豊かな時間をお過ごしいただけたでしょうか。なかなか以前の日常が戻らず気を揉むことも多い今日この頃ですが、少しでもゆったりとした気分になっていただければ嬉しく思います。
次回のメモリアルコンサートは1月11日(月祝)に開催予定です。今年度最後の開催となりますので、よろしければご予約の上足をお運びください。