お知らせ
鳴瀬サロン「冬の小さな音楽会 in 野蒜」
- 2020.12.12
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東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県東松島市。多くの人が他地域に避難し、そのまま移住した人もいるなかで、かつて鳴瀬地区にお住まいだった方々は、同郷のみんなが集まって交流する場として「鳴瀬サロン」を仙台市内で開催しています。
復興センターでは2014年から毎年12月に復興コンサートをお届けしてきました。今年は新型コロナウイルスの影響で慎重になっていましたが、毎年恒例のコンサートを楽しみにしてくださっている方もたくさんいらっしゃるとのことで、感染防止対策をしっかりしつつ、今年も小さな音楽会をお届けすることとなりました。会場のとなった東松島市野蒜市民センターには、サロンのメンバーや地域にお住いの方など、30人ほどが集まりました。今日の出演はクラシックギター奏者の佐藤正隆さんと小関佳宏さんのお二人。ぬくもりのあるクラシックギターの音色が、今日のこじんまりとしサロンコンサートの雰囲気にぴったり合うことと思います。開催にあたってサロンのお世話役の方から「今年は大変な1年だったので、自分への一足早いクリスマスプレゼントとして、ゆっくり聴いてください」とご挨拶がありました。
まず最初の曲は『川の流れのように』でした。どこかノスタルジックで優しい音色に、自然と体の力が抜けてリラックスできます。みなさんくつろいだ表情で聴き入っていました。続く『遠い谷への旅』では、弦をつまびく合間にギターのボディをノック。木の板を叩く柔らかい音がゆったりとしたメロディにアクセントを加えていました。
中島みゆきの『糸』は小関さんがギター用に編曲した楽譜で演奏してくれました。ご友人から、結婚式のためにと編曲を依頼されたそうで、『糸』とは関係のない旋律の前奏は「僕からのはなむけとして、バージンロードを歩いているイメージで作りました」とのこと。その前奏を実際に聴いてみると、確かにバージンロードをしずしずと歩いてくる花嫁の姿が見えるようでした。前奏に続いて『糸』のメロディが始まると、マスクの下で口ずさんでいる声が聞こえてきました。
4曲目に演奏されたのは『4つの小さな夢の歌』から「冬」と「春」。作曲者の吉松隆さんはクラシック界でとても有名な方だと説明した佐藤さんは、この曲を「心に訴えかけてくる曲です」と紹介してくれました。寒い冬の日に、コタツに入って家族団らんしているようなほのぼのとしたメロディから、春になって生命が芽吹く輝きを感じさせるメロディへと移り変わる演奏をじっくりと味わいました。さて、お二人が演奏するクラシックギターには弦が6本しかないので、そのぶん演奏できる音に制約があります。その制約を解決するため、調音の際に基準の音からずらし、音を足して演奏することがあるそうです。次の『赤とんぼ幻想曲』は、そのように音を変えてから演奏されました。演奏に入る前に「6番線をミからレ、5番線をラからソに・・・」と説明しながら弦の張り具合を調節するお二人の作業に、お客さんも興味津々。調節しながら弾かれる弦から出る音が低くなっていくのを実際に聴いて「なるほど」と頷いている人もいました。音が変わったことで、それまでと少し印象が異なるギターの音色で、あるときはしっとりと、あるときは陽気にと、次々と曲調が移り変わる『赤とんぼ』を楽しみました。
プログラムの最後はもうすぐクリスマスということで、『そりすべり』『ホワイトクリスマス』『聖しこの夜』をメドレーで演奏してくれました。木の温かみがある会場に響く、ギターで演奏されるクリスマスソングに、何だか心が洗われるような気持ちになりました。対面の演奏が難しくなったことで動画で演奏を届ける機会が増えたいう佐藤さんは、お客さんの反応がない配信での演奏はどこかストレスも感じていたと今年の活動を振り返りました。「こうしてみなさんの前で演奏して、お顔を見ながら演奏する時間は宝物のようだと再認識しました」という佐藤さんの言葉に、お客さんも深く頷いていました。
そんな宝物のような時間の最後に、アンコールに応えて演奏されたのは、童謡の『海』でした。人によっては少し気持ちがざわめくこともある曲ですが、同じ旋律を何度も繰り返すギターの音色が、寄せては返す波のようにそっと心を揺さぶり、そして落ち着かせてくれます。呼吸の音すら聞こえそうなほど静かな会場で、最後は消えてしまいそうなほどかすかに響くその音を体にしみこませるように、多くの方がじっと目を閉じて耳を傾けていました。
終演後、「『海』があんなに穏やかな音楽になるなんて感動しました。野蒜海岸の海も静かな新年を迎えられることを祈っています」という声をいただきました。優しい調べが、みなさんの心に響いたようです。
温かな音色と拍手がいっぱいのサロンコンサートはこうして無事に終了。「ギターと一緒に心の琴線をつまびいていただいたような、すてきな時間でした」という感想をいただき、とても嬉しく思いました。
今年は年が明けて間もなくから大変な状況が続き、常にどこかで気を張って生活していたように感じます。そんな1年の終わりに、小さなコンサートで心安らぐ時を過ごしていただけたのなら幸いです。どうそよいお年をお過ごしくださいね。