お知らせ

田子西「うたカフェ♪」_12月

2020.12.18

仙台市宮城野区にある復興公営住宅の田子西市営住宅では
町内会主催のサークル活動として、この住宅とその周辺にお住まいの方々の
交流の場「うたカフェ」を2014年10月から始めました。
昔なつかしい歌声喫茶にヒントを得て、みんなで歌い、
おいしいコーヒーとおしゃべりを楽しもうという趣向です。
復興センターでは仙台オペラ協会と協働し、音楽リーダーをコーディネートしています。
(仙台市「音楽の力による震災復興支援事業」)

今週は毎日のように雪が降り続いていた仙台。今朝は踏み固められた雪が凍り、道行く人は足を滑らせないよう慎重に歩みを進めていました。そんな足元の悪い中ではありますが、今日は田子西うたカフェ特別企画としてクリスマスコンサートを開催しました。出演はもちろん、仙台オペラ協会のソプラノ松本康子さんと岩瀬りゅう子さん、ピアノは富樫範子さんです。
年に一度の特別企画ということで、お三方ともドレス姿で登場してくれました。松本さんは目の覚めるようなスカーレットのドレス、岩瀬さんはオーロラのように様々な色に光るドレスを身にまとい、富樫さんのシックなブラックのドレスが全体をきゅっと引き締めます。綺麗にドレスアップした姿に、参加者からは「すてき~!」と歓声が上がりました。

さて本日のプログラム第一部は、オペラハウス田子西にてオペラ「フィガロの結婚」のハイライトシーンをお届け。松本さんが伯爵夫人、岩瀬さんが女中のスザンナ役として『愛の神よ、安らぎを与えたまえ』『手紙の二重唱』など、全5曲を歌って名場面を再現してくれました。それぞれの曲ごとに松本さんが解説を用意してくれていたので、「フィガロの結婚」を見たことがない人でも大まかなストーリーを把握しながら曲を楽しむことができたのではないでしょうか。有名なオペラアリアを単体で耳にすることはあると思いますが、オペラの筋書きをなぞりながらいくつもの曲を聴く機会はあまりないかもしれません。おいしいところどりの福袋のようなハイライト集を、みなさん大いに楽しんでいたようです。
続いて富樫さんが、ジャズのスタンダードナンバー『スターダスト』を弾いてくれました。暗い空に輝く星くずのようなキラキラとした音の連なりに、みなさんうっとりと聞き惚れていました。この曲は松本さんが演奏してくれるようお願いしたのだとか。聴き終えた松本さんは「すばらしかったですね」と感激した様子で語りました。
また、今日はクリスマスコンサートということで、みんなで『サンタが街にやってくる』を歌いました。弾むようなメロディのクリスマスソングは歌っているだけでワクワクしますね。みなさん体でリズムをとりながら、笑顔で歌ってくれました。

さて、次はプッチーニのオペラから2曲をお届けしました。
最初に松本さんが、「ラ・ボエーム」の『私の名はミミ』を歌ってくれました。このオペラはクリスマスイブの物語。『私の名はミミ』は、ふとしたことで出会った男性に名前を訪ねられたヒロインが自己紹介をしている歌です。「私の身の上話は簡単です」と前置いて、みんなからミミと呼ばれていることや、小さな白い部屋に一人で暮らしていることなど身の回りのことを歌っているのですが、松本さんの声には恋の始まりに胸を高鳴らせるミミの気持ちがあふれているようでした。
続いて岩瀬さんが歌ってくれたのは「蝶々夫人」から『ある晴れた日』でした。歌う前に、岩瀬さんから『私の名はミミ』と『ある晴れた日』のどちらにも”bianco”という単語が出てくること、そしてミミも蝶々さんも作品の最後には亡くなってしまうという共通点があることを教えてくれました。「おそらくまだ10代の娘さんだった蝶々さん、子どもを育てながら、きっと夫が迎えに来てくれると信じて待っていたんでしょうね」という岩瀬さんの説明を、みなさん神妙な顔で聞いていました。夫の帰りを待つ切実な願いのこもった歌声に、胸がしめつけられるようでした。

少々しんみりしてしまいましたが、今日は田子西うたカフェの歌い納め。最後はオペレッタ「こうもり」より『葡萄酒の燃える流れに(シャンパンの歌)』でにぎやかに終わりましょう!先月この曲を歌ったのは、実は今回みんなで歌うための下準備だったのです。
「今年は自粛、自粛で疲れましたね」と松本さん。「まだ収束してはいないけど、来年は明るい希望が見えることを祈って、楽しく歌い納めをしましょう!」という言葉に、みなさん大きく頷いていました。そして音を外してもいいので、とにかく楽しく歌いましょう!という松本さんの言葉に背中を押され、元気に「乾杯!」と声を合わせました。

松本さんの言うように楽しい歌い納めができ、会場には大きな拍手がわきました。コンサートを終えて「みなさんと歌えることが幸せだと、ひしひしと感じています」と挨拶した松本さんに、参加者からも同意の声が上がりました。終演後はクリスマスプレゼントということで、喫茶ひこのマスター西垣信彦さんが用意してくれたコーヒーのドリップパックをお渡ししました。寒さが身にしみる今日この頃、温かいコーヒーのおいしさはひとしおですね。
今年は思うように人と集まることもできなくなり、うたカフェも一時は休止を余儀なくされました。その後町内会さんで様々な感染対策を講じてくださったうえで再開させていただくことができて、誰かと一緒に音楽を聴いたり歌ったりすることで生まれる力を改めて感じることができました。まだまだ以前のようにはできないことも多いですが、色々な工夫をしながらこうした場を作り続けていきたいと思います。
今年も1年お世話になりました。どうぞよいお年をお迎えください。