お知らせ

「のびるオペラアンサンブルコンサート」

2022.6.7

ここ数日はぐずついたお天気が続いていましたが、コンサート当日は朝から青空が広がっていました。今日のコンサートは2月に予定していたものが、新型コロナウイルスの影響で今日まで開催が延期になっていました。その間にも事態は収束とまではいかず、主催の野蒜まちづくり協議会の皆さんは「私たち役員を入れても40人くらいかな?」という見込みでしたが、開場時間前からお客様がどんどんいらして、スタッフ総出で次々に椅子を追加することに。予想を超える人数に、役員さんは「2月から延期になって、みんなずっと待っていたんだと思います」と目を細めていました。

本日出演するソプラノの齋藤翠さんは東松島市のご出身で、会場には実家のご近所の方もいらしていたようです。翠さんと同じ仙台オペラ協会に所属するソプラノ岩瀬りゅう子さん・バリトン鈴木誠さん、そしてピアニスト大岩千華さんの4人で、本日はオペラアンサンブルコンサートをお届けします。
コンサートは、オペラ「椿姫」の『乾杯の歌』でスタートしました。ソプラノとバリトンの三重唱による華やかな幕開けに、聴き手は一気に音楽の世界に引きこまれていました。「オペラアンサンブルと銘打った今日のコンサートですが、色んな曲を用意してきました」と挨拶した翠さんは、さっそく『あの素晴らしい愛をもう一度』を歌ってくれました。オペラの名曲の次はフォークソングの代表曲が登場し、耳になじんだメロディにみなさんリラックスした様子で耳を傾けていました。
その次は再び三重唱で、さだまさしさんの『いのちの理由』という曲を歌ってくれました。「歌詞に救われます」と話した翠さんの言葉のとおり、誰もが幸せになるために生まれ、生きて行くんだよ、ということが、シンプルでストレートな言葉でつづられています。その歌詞を優しく語りかけるように歌う3人のハーモニーが会場に優しく満ちていました。続いて「いのち、というタイトルが続きますが」と岩瀬さんが紹介してくれたのは『いのちの記憶』という曲です。スタジオジブリの「かぐや姫」という作品の主題歌として耳にされた方も多いかと思います。生きている間に感じた喜びも悲しみも、得た全てが未来への希望であり、いのちの記憶として連綿と続いていく・・・そんな歌詞を噛みしめるように歌う岩瀬さんの歌声が心を温めてくれるようでした。

もちろんオペラの曲も登場しました。まずは鈴木さんが「フィガロの結婚」より『もう飛ぶまいぞ この蝶々』を歌います。オペラ歌手の歌声を生で聴ける機会はなかなかないと思いますが、男性のオペラ歌手の歌を目の前で聴くことはさらに少ないのではないでしょうか。堂々と、そして高らかに歌い上げる鈴木さんの美声に、みなさん圧倒されたように聴き入り、「さきほど『いのちの理由』を歌っていたときと、ずいぶん印象が違っていたのではないでしょうか?」と尋ねた翠さんに大きく頷いていました。
岩瀬さんと翠さんは「コジ・ファン・トゥッテ」より『ねぇ、ちょっと見てちょうだい』をお二人で歌ってくれました。これは姉妹が互いに恋人の肖像画を見せながら、自分の恋人がいかに魅力的かを語り合っているという曲です。歌う前に「彼女たちは幸せの絶頂にいるんです」という説明がありましたが、岩瀬さんと翠さんは歌声だけでなく、表情や身振りでもそうした気持ちを表現。聴き手は恋人に夢中になっている、とってもキュートな恋する乙女の二重唱を楽しみました。

さてここからは再び日本の曲へ。まずは季節の唱歌をメドレー形式で歌ってくれました。『茶摘』『夏は来ぬ』『われは海の子』『村祭』とよく知る曲ばかりですが、そこはプロのオペラ歌手による唱歌メドレー。それぞれのパートを歌ってハモるのはもちろん、輪唱したりボカリーズが入ったりと、短い曲の中にも様々な工夫を凝らしていました。実は当日のリハーサル中に歌うパートを交換したりボカリーズを追加したりと、ギリギリまで音楽づくりをしていたのです。なじみ深い唱歌がぐっと洗練されたものになり、お客様を楽しませていました。
さて、よく知った曲ばかりのメドレーを聴いて、みなさん手拍子したり足でリズムをとったりと気分が盛り上がってきた様子。せっかくなので、みんなで『青い山脈』を歌いました。歌う前に、座りっぱなしで固くなった体をほぐします。岩瀬さんはたくさんの歌の会の音楽リーダーを務めていらっしゃるので、慣れた様子で体操をリードしてくれました。
指揮をしてくれる鈴木さんからは、歌い方のワンポイントアドバイスがありました。曰く、前半は弾みようにリズミカルに歌い、”〽青い山脈~”のところからは滑らかに、山脈の画が浮かぶように歌うと良いとのこと。なるほど、と頷いたみなさん、そのポイントをしっかり意識して歌えていました!時節柄、ちょっと遠慮がちな方もいらっしゃいましたが、みんなで声を合わせて歌えることがとても嬉しそうな様子でした。

 

 

ここで翠さんが「今日いちばん出演率の高い大岩さんのピアノをお聴きください!」とアナウンスしました。大岩さんはリハーサル中に声楽の3人が歌いやすいよう、かつ歌とピアノの音がぶつかってしまわないよう弾く音域を変更するなど、こまやかに対応しながら今日のコンサートを支えてくれています。そんな大岩さんがソロ演奏の曲に選んだのは、「私たちピアニストにとって、練習曲としてとてもなじみが深い」というショパンの練習曲集第3番『別れの曲』です。練習曲とされている曲ですが、ショパン自身が「二度とこんな美しい旋律を見つけることはできない」と語ったという旋律は聴く人の心をとらえます。甘く切なく、ときに激しくピアノを奏でる大岩さんの演奏を、みなさん集中して聴いていました。

プログラムの最後は、何とも異色な曲が2曲登場しました。まずはメインボーカル鈴木さん、コーラス岩瀬さん・翠さんによる『タコのブルース』。子ども向けに作られた楽曲で、鈴木さん扮する<さすらいのタコ>の初恋を描いた一曲です。「わたくし、これからタコになります」と宣言した鈴木さんが、曲に入る前に美しい”彼女”(もちろんタコです)と海中での出会って恋に落ち、そして誤ってタコ壺に入ってしまった彼女が海の上に引き上げられて離れ離れになってしまうまでのいきさつを教えてくれたのですが、ユーモアたっぷりの言い回しに会場からは笑い声が上がります。その調子で始まった『タコのブルース』は、ソプラノ二人によるバックコーラスの効果もあって、なんともムーディーな曲に。渋~い良い声で大真面目に歌われるタコたちの恋愛物語に、笑ったり聞き惚れたりと実に楽しい一曲でした。
ラストは何と、ご当地民謡『斎太郎節』でフィナーレです。「エンヤードット」の囃し言葉で始まるおなじみの曲も、オペラ歌手の歌唱だと壮大なスケール感が生まれて、随分雰囲気が違いました。この曲が一番楽しみだと言っていた大岩さんは、コンサート終了後に「かっこいいなぁと思いながら伴奏を弾いていました」と教えてくれたのですが、その言葉どおりとてもかっこいい『斎太郎節』に、大きな大きな拍手がわきました。さらに嬉しいアンコールの声には、『川の流れのように』で応えてくれ、体を揺らしながら聴く人、マスクの中で小さく口ずさむ人と、みなさん最後の1曲を思い思いに楽しんでいました。

 

野蒜まちづくり協議会の会長さんは、終演の挨拶の中で「コロナで大変な状況でしたが、コンサートで音楽を聞いて、地区の空気が変わったように感じました」と仰っていました。この2年、なかなか思うように過ごせない不自由が続いていましたが、今日のようにみんなで音楽を楽しんでほっとくつろげる機会が、少しずつでも増えていけばいいなと思います。今日は本当にありがとうございました!〈この公演は、令和4年度宮城県NPO等による心の復興支援事業補助金を受けて実施しました〉