お知らせ

福島・ホッとコンサート『糸~奏でよう涼やかなメロディーで~』

2022.7.27

福島市社会福祉協議会が主催する 『ホッとサロンてとて』7月の例会として、『ホッとコンサート「糸~奏でよう涼やかなメロディーで~」』が開催されました。会場は福島市音楽堂小ホール、出演は福岡県久留米市にお住まいの、ホルン奏者石田眞一郎さんと、仙台市にお住まいのピアノ蔡翰平さんです。

福島市内に暮らす、原発事故避難者・帰還者(県外に一時避難された後、福島に戻っていらした方)の方々の、月に一度の集いの場が「ホッとサロンてとて」。ここ数年、年に二度、福島所縁の音楽家と共に訪ねていましたが、今年度福島県「心の復興」補助金の大幅な要件変更があり、今年度は夏の1回のみ、お伺いすることになりました。

現在フリーランスでホルン奏者として活躍される石田さんは、中国・蘇州交響楽団を退団されて、帰国したばかりです。石田さんから、ご友人づてに紹介いただいたのが、仙台在住の蔡さんでした。実を言えば、先週からのコロナ第7波の影響で、先週から今週にかけての、復興コンサートは宮城県内6公演が中止となり、この福島公演も、本当に開催できるのかギリギリまで気が気でありませんでした。しかし、収容定員200名の会場に、20名ほどの参加見込みであること、定期的な集いのため参加者も把握できており、社会福祉協議会との信頼関係の上で参加いただいていること、復興センターが独自のガイドラインを音楽家と共有した上で活動を行っていること、一人暮らしの方も多く、月に一度の顔を合わせる機会、また貴重な外出の機会として、できるだけ変わらず提供したいこと…などの理由から、予定通り開催します、との連絡。とは言え、出演者・スタッフの直前罹患の可能性も拭えず、会場で出演者・スタッフ全員が顔を合わせるまでは、非常に不安でした。当日朝ようやく、お会いすることができて、心底ほっ!としました。

音が吸われやすく、残響のほとんど残らない会場に、前日夜のリハーサルでは石田さん、蔡さんともにご苦労されたとのことでしたが、「ホールも楽器のうち」と思わせられる、石田さんの豊かな音量と響きに、ピアノはもちろん蓋を全開にして、アンサンブルをつくっていきます。舞台の上と客席とでは大分聴こえ方が違っていました。また、金管楽器の独奏によるコンサートは、これまで何度も伺っている「ホッとコンサート」でも初めてのこと。併せてピアノソロも3曲も入れていただいて、こんなにしっかりピアノを聴いていただく機会もなかったように思います。

コンサートは、ロシアの作曲家アニシモフの「ポエム」から。旧ソ連の楽譜出版元は、とうに倒産し、現在正式には手に入らない楽譜だそうです。震災直後、石田さんが上京してすぐに東京で聴いた、福島出身のホルン奏者によるチャリティーコンサートで取り上げられており、大きな感銘を受けて、この曲をいつか福島のみなさんに届けたい、演奏しに行きたいと今日まで思い続けていたそう。今日は、それが叶いました、と。

続くピアノ・ソロでのドビュッシー「月の光」。「震災の直後にも、大好きなこの曲を弾くと、心を落ち着かせることができた」と蔡さん。静かな曲ではありますが、心の中で思いが沸き立つような瞬間もある曲。終わりの音が静寂に消えゆくまで、お客さまもみなさん、その音の行方を、息を潜めて聴きいっていらっしゃいました。その後も、モーツァルトのホルン協奏曲から抜粋や、蔡さんが留学されたベルギーの作曲家ヨンゲン「妖精の踊り」、楽器紹介も挟みながら(お二人とも、お話しがとてもお上手で、ご年配の方にも伝わりやすい言葉を選んで、お話しくださいました。)カーペンターズ「青春の輝き」、美空ひばり「川の流れのように」、コンサートのタイトルにもなった中島みゆき「糸」などを演奏されました。20代後半の蔡さんは、昭和歌謡をこのところよく聴かれているそうで…!「糸」はいい曲ですねえ…と、とても実感がこもったお話しぶりに、客席のみなさんも頷かれていた様子です。

アンコールは、会場隣に記念館のある、福島市出身の古関裕而「栄冠は君に輝く」。ちょうど昨日福島では、聖光学院が3年ぶりに甲子園行きを決めたところ。夏らしい元気な一曲で締めくくり、拍手喝采でした。

福島市も例に漏れず、クラスターなども起きている状況。何人くらい、参加してくださるだろうかと不安に思っていたものの、ここ数年で一番多かったのでは?というほどの盛況でした。初めて、参加してくださった方がお一人どころではなく、久しぶりにいらした方、そしてご夫婦での参加も多かったとのこと。社会福祉協議会のスタッフのみなさんも、本当にうれしい驚きだったようです!外出すること自体に不安もありますが、でも、家に1人でいるばかりでは、気分も塞ぎ、身体も動かさず、一人暮らしであれば尚更のこと、誰とも話さずに日が暮れてゆき、知らず知らずのうちにストレスを溜めてしまう…。たった1時間の短いコンサートでも、若い音楽家の演奏にみんなで耳を傾けるこの時間が、ほんの少しでも、気分転換になれていたら…と心から思いました。

濃密な「ホッとサロンてとて ホッとコンサート」、石田さん、蔡さん、ありがとうございました。そしていつにも増して、あちこちの復興住宅にポスターを張ったり、声掛けをしたりとご準備いただいた福島市社会福祉協議会のみなさま、大変お世話になりました。今日初めてお出かけいただいたみなさん、またぜひ、次回もお待ちしていますよ!