お知らせ
メモリアルコンサート vol.37
- 2022.9.12
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音楽の力による復興センター・東北では
東日本大震災の月命日にあたる11日に、市民のみなさんとともに
音楽を通じてあの日に思いを馳せる場を設けたいと考え、
「メモリアルコンサート」を企画制作しています。
(主催=仙台市/協力=せんだい3.11メモリアル交流館)しばらく続いていた雨が週末になった途端にぱっとやみ、絶好のコンサート日和となりました。
本日ご出演いただくフルートの井上実畝さんとピアノの八巻和也さんはお二人とも福島県在住で、主に福島県内の復興コンサートに出演いただいています。会場となる「3.11メモリアル交流館」には初めて入ったということで、素敵な場所で演奏できるのが楽しみです、と話していました。さっそくリハーサルで音を出してみると、お二人が思っていた以上に音が響いたようです。「はっきり吹いたほうが合うかな」「ピアノはあまりペダルを使わないほうが」と相談しながら、慎重にバランスを調整していました。今日のメモリアルコンサートは、朝の連続テレビ小説「花子とアン」の主題歌『にじいろ』で始まりました。すっきりと晴れた青空にぴったりな爽やかなメロディを、お客様も楽しそうに聴いていました。井上さんは作曲者の絢香さんが「毎朝聴く曲なので、軽快なリズムで明るく1日のスタートをきってもらいたい」と言っていたのを聞き、この曲を今日のオープニングに選んだそうです。他の曲についても「この大変な時期に、1曲でも気持ちが晴れる曲があればいいなと思って選びました」と説明した井上さんの言葉の通り、前向きな気持ちになれる曲がたくさん登場しました。
2曲目はサティの『ジュ・トゥ・ヴ』。元々は喫茶店の音楽の7つのシャンソンのうちの1曲だそうで、優美なワルツのメロディが美しい曲です。曲名は知らなくてもCMや、それこそ喫茶店で流れているのを聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。演奏前には井上さんが「みなさん、ジュ・トゥ・ヴって発音できますか?」と尋ねて笑いを誘う場面もありました。その後は八巻さんのソロ演奏で、ベートーヴェンのピアノソナタ第8番「悲愴」より第2楽章を聴きました。全3楽章で構成されているこの曲の第1・第3楽章はタイトルの通りシリアスな印象ですが、その二つをつなぐ第2楽章は八巻さん曰く「温かさや、光を感じる美しいメロディなんです」。八巻さんは震災当時、停電や断水が続く自宅のリビングでこの曲を弾いていたそうです。「そのときは家族に聴かせてあげた、と思っていましたが、今になるとあれは自分を安心させるため、自分のために弾いていたのかも、と考えるようになりました」と当時を振り返りました。「技巧的な曲ではありませんが、曲がもつあたたかい雰囲気を共有できればと思います」と話した八巻さんの真摯な気持ちがこめられた、優しく慰めるようなメロディが会場に響きました。
プログラム中盤からはちょっとリラックスして、みなさんがよく知る曲をお届けしました。まずは童謡『浜千鳥』。作詞した鹿島鳴秋のエピソードや、千鳥が万葉集の時代から和歌に詠みこまれてといった豆知識を紹介されつつ、懐かしい曲を心の中で歌いました。
そしてプログラムの最後には、復興コンサートの最後にいつも演奏するという『愛燦燦』『真赤な太陽』『川の流れのように』の美空ひばりメドレーを弾いてくれました。お二人はもちろんリアルタイムで聴いていた世代ではありませんが、祖父母がカセットを聴いたりカラオケで歌っていたのを今でも覚えているとのこと。世代を超えて愛される曲の数々に、八巻さんは「ひばりさんの歌声にはそれだけの力がありますね」と話し、お客様も頷いていました。目を閉じて『愛燦燦』を聴き入っていたり、『真赤な太陽』のイントロを聴くや嬉しそうに顔を上げたり、『川の流れのように』を聴きながらゆったりと体を揺らしていたりと、みなさん思い思いにひばりさんの名曲を楽しんでいました。アンケートには「声を出して歌いたかった~」という感想も。本当に、みんなで一緒に歌えるようになる日が待ち遠しいですね。
お客様からの温かい拍手に応えてアンコールに演奏してくれたのは、震災当時もあちこちで流れていた『見上げてごらん夜の星を』。改めて「希望の湧く曲だな」と感じて選んでくれたそうです。お二人がお住まいの福島県は復興コンサートに伺う機会もここ数年でようやく増えてきて、岩手・宮城ともまた違った復興の様子があるように感じます。そうした地域で音楽を届けているお二人が演奏する『見上げてごらん夜の星を』は、終盤なるにつれて曲が明るく展開し、明日への力がわいてくるような一曲でした。終演後に書いていただいたアンケートには「アンコールの曲を聴いて、当日の夜の星空を思い出しました」「色んなことや、色んな人の顔が浮かびました」といった感想が書かれていました。また、「今日聴いた曲を口ずさみながら頑張ろう」という言葉もありました。震災から11年と6ヵ月の今日、音楽を通じてあの日を振り返り、また音楽を明日の糧にして進もうと感じていただける場を共有できて良かったと感じます。井上さん、八巻さん、温かいコンサートをありがとうございました。