お知らせ
メモリアルコンサート vol.38
- 2022.11.11
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音楽の力による復興センター・東北では
東日本大震災の月命日にあたる11日に、市民のみなさんとともに
音楽を通じてあの日に思いを馳せる場を設けたいと考え、
「メモリアルコンサート」を企画制作しています。
(主催=仙台市/協力=せんだい3.11メモリアル交流館)一ヶ月ぶりの開催となったメモリアルコンサート。出演いただくのは、今年度から仙台市泉区の復興公営住宅に歌の会をお届けしているソプラノ都築紘子さん・ピアノ千葉理香さんのお二人です。とても朗らかなお二人で、リハーサルも和気あいあいと楽しそうに行っていました。
また、会場のメモリアル交流館には中学生4人が職場体験に来ていたので、会場設営や受付のお手伝いをしてもらうことに。そうしたら全くの偶然だったのですが、その内の1人のおばあさまがお客様としてご来場!思いがけないところで会えて、とても嬉しそうに言葉を交わしていました。今日の荒井は秋晴れの空が広がり、上着がいらないほどの暖かさ。ゆったりと音楽を聴くのにぴったりです。
コンサートは『星めぐりの歌』と『七つの子』で始まりました。アノの繊細な音色と、会場を満たす都築さんの真っ直ぐな歌声に、聴き手は一気に曲の世界観に引き込まれます。『七つの子』は誰しも一度は口ずさんだことがある素朴な歌ですが、とても華やかにアレンジされているので、聴き応えがある1曲になっていました。
3曲目に歌ったのは『カチューシャの唄』。ある女性はプログラムにこの曲名を見つけるや「あ、カチューシャ!」と嬉しそうにこぼしていました。つい先日、遠方のお友達と3年ぶりに会い、お互い変わらない姿・変わらない気持ちで会えたことが嬉しかったという都築さんは、特に【せめてまた逢うそれまでは 同じ姿でいてたもれ】という歌詞がお気に入りなんだとか。この曲もまた豪華なアレンジが加えられ、特に間奏がとてもロマンティック。思わずうっとりと聞き惚れてしまいました。そして曲の終盤で、堪えかねたようにあふれた涙を拭っている人も。音楽をきっかけに、様々思うことがあったのでしょうね。千葉さんがソロ演奏用に選んだのはドビュッシーの『月の光』です。震災当時は高校生だった千葉さんがちょうど練習していた曲だったとか。幸い自宅に大きな被害はなかったものの、自由に弾きたい曲を弾いて練習できる状況ではなかったときに、”この曲なら”と思って細々と弾いていたそう。千葉さんは当時を振り返って「拙い演奏でしたが、優しくて柔らかいこの曲で、聴いた人を少しでも癒せたらと思って弾いていました」とお話してくれました。そうして始まった演奏は、千葉さんの優しい気持ちにあふれた美しい音色でした。静かに降り注ぐ月光のような音色に、みなさん目を閉じて聴き入っていました。
月といえば、3日前には皆既月食が見られましたね。それもあって、再び都築さんも参加して月に関連する曲をお届けしました。ヴィラ=ロボスの『メロディア・センチメンタル』は女性が想い人への愛をこめて歌うセレナーデ。ポルトガル語の歌詞には月に思いをかける言葉が何度も出てきます。さらに「さっきは月に、今度は星に願いを込めて」ということで、お次はポンセ作曲『エストレリータ(小さな星)』を。「大変な状況が続きますが、早くみんなが幸せに暮らせますように」と話して歌い出した都築さんの、切なる祈りがこもった歌声が会場に響きました。
大きな手拍子に応えて、アンコールも1曲。今日はオペラの曲を歌わなかったので、とプッチーニの「ジャンニ・スキッキ」より『私のお父さん』を歌ってくれました。CMに使われたこともある有名な曲なので、何となく耳にしたことがあるという方も多いのではないでしょうか。プロの声楽家によるオペラアリアでのフィナーレに、会場からは大きな拍手がわき起こりました。今日は全体的にしっとりとした曲が多かったですが、合間に挟まれる都築さんのトークは実に軽快で、お客様を何度も笑わせていました。「都築さんみたいにお話が上手ではないのですが・・・」という千葉さんも優しいお人柄がにじみでている和やかな話しぶり。今日が初めての参加というお客様も多かったので、最初はピシッと背筋を伸ばして聴いている方もいましたが、お二人のお話でいい具合に緊張がほぐれたようで、リラックスして音楽をお楽しみいただけたようです。
終演後、ひとりの女性に「亡くなられた方々も喜んでいると思います」と声をかけていただきました。津波でご家族を亡くしたというご自身の経験をお話してくれたその方は、話が今日のコンサートの感想に至ると、どこかほっとしたような表情で「来て良かったです」と仰いました。11年と8ヵ月が経った今もなお、ふとしたときに揺れ動く心があります。そんな心に美しい音楽が寄り添うこのひとときを、これからも大切にしていきたいと思いました。