お知らせ

釜石・鵜住居『「音楽のチカラ」ふれあいコンサート』

2022.9.2

アルトの谷地畝晶子さん、ピアノの阿部夕季恵さんと共に、今年も釜石・大槌ツアーが始まりました。PCR検査、無事3人とも陰性を確認してから、やってきました。まずはスタートラインに立てて、ほっ!最初の会場は、三陸鉄道リアス線・鵜住居駅のすぐ目の前にある、釜石市鵜住居(うのすまい)公民館です。〈共催:鵜住居公民館 協力:(一社)槌音〉

鵜住居公民館の多目的室は、とてもよく響きます。谷地畝さんの、相変わらず豊かで美しい歌声と、古いのですがとてもよく鳴ってくれるKAISER社製のピアノとで、「演奏するのも、ここはとても楽に歌えます!」と、幸先良いツアーの始まりとなりました。公民館でコンサートが開催されるのは、大分久しぶりのこと、いらっしゃる方同士の近況報告にも花が咲いていました。またコーラスサークル「鵜住居うたう会」のみなさんなど、始まる前から「また、今回も楽しみにしてたよ!」と声を掛けていただいて、とても嬉しく思いました。岩手県内も感染者数はこのところ高止まり気味。外出を控えていらっしゃる方も多いのかもしれません。広い会場に、ゆったりと座っていただきました。

コンサートはスコットランド民謡「故郷の空」から始まりました。「夕空晴れて、秋風吹き~♪」と始まる出だしが、今の季節にとてもぴったりで選んでみました、と谷地畝さん。今回のメインに据えた「愛の讃歌」はフランス語で歌います。訳詞と原詞の、内容の違いについて紹介があり、その後で演奏を聴くと、一層、曲のドラマティックさに引き込まれて、拍手喝采となりました。

そこからは急展開の、「みんなで歌えないなら、一緒に体操しましょう!」企画、阿部さんのピアノの生伴奏で「ラジオ体操第一」。所長さんと職員さんに、前に出て体操をお願いすると、お客さんみなさんも、全員が立ち上がって参加してくださいました!

中村八大が作曲した曲を○か×かで答えるクイズコーナーで盛り上がった後は、ピアノソロでの「黄昏のビギン」。これも中村八大さんの作曲です。ついつい自然とピアノに誘われて口ずさむ方の声も聴こえてきました。つい、鼻歌を歌いたくなる歌って、なんだか良いものですね。みなさんぜひご一緒に、歌ってくださいね、とは、まだなかなか促せない状況ですが、心の中で、マスクの中で、ぜひご一緒に、とそんな気持ちでした。「夕焼け小焼け」の歌詞の最後には「空にはきらきら金の星…」と出て来ます。谷地畝さんの、今日の金色のドレスは、稲穂のイメージなのかなと思いましたが、こちらの「金の星」のイメージで選ばれたそうです。「憧れのハワイ航路」では、「行ったこと私はないんですけど、ちょっとこれを見つけたので気分だけでも…」とレイを付けた谷地畝さんと阿部さんに、みなさん思わず笑顔。手拍子で参加してくださり、楽しい幕切れとなりました。また終演後には、熱心に感動を書いてくださる方が多く本当にほっとしました。

終わって次会場への移動は路線バス。待っていると、先程客席にいらした男性が「谷地畝さん、阿部さん!」と声を掛けてくださいました。聞けば隣の災害公営住宅に、今は一人暮らし。「実家はすぐそこなんだけど、もう、草がボウボウに生えたままなんだよ、とても新しい家は建てられないからね…」震災の時は、盛岡にいらっしゃり、数日後、鵜住居に来てみると…津波のあとの町を目のあたりにして、ショックが大きかったためか、脳梗塞を起こしてしまったのだそうです…。「今は、こうして一人暮らしだけれど、時々バスで出かけたり、体操に参加したり、してるんですよ」と。明日の別会場のチラシも、手にはお持ちでした。「追っかけ、お待ちしてますね!」とお話しすると、うんうん、と頷かれて「今日は本当に、素晴らしかった。また来てくださいね」と笑顔で別れました。

バスに乗ってからも、ピアノの阿部さんがおじいさんの言葉を、じっと思い返されていました。「実家の場所は変わらずあるけど、草が生えたまま、て…切ない、ですね…」窓の外の、家の建てられていない、空き地の多さが、バスの窓から改めて次々に目に入ってきました。自分の家を建てたくても、建てられない…あそこに家があったのだけれど…道路沿いに、その向こうにとずっと続いている空き地は、おじいさんのような方、おひとりおひとりの、家があるはずだった場所なんだ、と改めて気付かされました。〈本事業は、岩手県「令和4年度被災者の参画による心の復興事業」補助金を受けて実施しました〉