お知らせ
渡波のさり「おかえり★ただいまコンサート」
- 2023.3.24
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昨夜、降り続いていたあたたかい雨も止み、朝のうちは曇り空ではありましたが、東北の3月にも関わらず、暖房のいらない過ごしやすい一日となりました。
昨年8月に続き、2回目の訪問となった、石巻渡波にあるデイサービスのさり。この場所は、大人の身長を超えるほどの津波が押し寄せた場所ですが、12年が経った今は、かつての津波浸水高を表す表示がなければ、その過去の災害には全く気が付かないほどに、平穏な住宅街が続いていました。前回訪問した時期は、感染症もまた拡がっていた時期でもあり叶わなかった地域の方へのお声掛けが、今回はようやく叶いました。コンサートの始まる前、NPO法人のさりの理事長である鈴木さんが「今日、ここに初めて入ったという方、どれくらいいらっしゃいますか?」と声を掛けると、10人以上の方の手が挙がり、びっくりしました!震災後にご縁があり、ここ渡波でスタートしたのさりの活動を知っていただけたら、また、津波を受けたこの地に戻り、変わらず住まうみなさん同士、「おかえり!」「ただいま!」と声を掛け合う気持で、顔を合わせるきっかけとして、一緒に楽しんでいただけたら、と声を掛けて廻ってくださった、鈴木さんのご尽力によるものでした。予想通り、開演前からあちらこちらで「あら~!」「久しぶり!」と声を掛け合う姿があちこちにありました。音楽を聴くだけではない音楽会という”場”の持つ役割が、早速発揮されていました。
今日の出演は、マリンバ&打楽器の熊谷昇子さん、布田恭子さんによるデュオ”こころ音”です。8月にも、同じくこののさりにご出演いただきました。障がいのある方もいらっしゃるとのこと、目で見ても楽しめる、そして色んな音の鳴る打楽器なら、きっと楽しんでいただけるのではと考えました。コンサートは、ヨハン・シュトラウス2世の「トリッチ・トラッチ・ポルカ」から元気よく始まりました。マリンバを間近に見る機会は、初めての方がほとんど。演奏が始まった途端に「ぅわ~!お上手!」とついつい心の声が漏れてしまう方も。演奏するお二人の素早さや、音色の美しさ、音量の豊かさなどに、みなさんすっかり驚き、聴き惚れていらっしゃいます。1曲が終わると、途端に盛大な拍手。つづく「お富さん」では、最初から最後までご機嫌よく唄ってくださる方が。みなさんの、踊りだすのではと思うほど、楽し気な手拍子が加わり、演奏を益々盛り上げてくださいました。もう、コンサート最後の曲かしら、と思うほどの盛り上がり!
つづく「マンハッタン」ではたくさんの打楽器が登場します。「叩くだけではなく、こすったり、振ったりして音が鳴るもの、全てを打楽器と言います。このタンバリンは、みなさんがよくご存知のものと一緒です!」布田さんの説明に「ほ~」「へ~」と身を乗り出して聞かれるみなさん。この後も豚さんやにわとりが「コーケコッコー!」と啼いたり、演歌「与作」で聞く「カーッ!」という音が聴こえたり、あちこちから笑い声もたくさんの1曲となりました。終演後には、「こんなにたくさんの楽器を目の前で見たのは、生まれて初めて!」と驚いたように教えてくれたお客さんもいらっしゃいました。本当に、なかなか見られない機会でしたね!
そしてマリンバの楽器の説明も。「低い音のする方は、鍵盤の木がとても薄くなっているので、硬い撥で叩くと割れてしまうこともあるんです」と布田さん。熊谷さんは、さまざまな材質で出来ている撥(ばち/マレット)を見せてくれました。毛糸や糸など材質の違いで聞こえる音色が変わることも、実際に聴き比べを。その後は、マリンバを熊谷昇子さんお一人で、童謡「海」をゆったりと。写真でper.布田恭子さんが手にしているのは“オーシャンドラム”という楽器です。熊谷さんの演奏に合わせて、波が、砂浜に打ち寄せる様子を、音で再現できるこの楽器。「さ~」と静かな寄せ波だけでなく、時には「ざっぱーん!」と、急に大きな音も響き渡るのでした。丸い枠の中には、小さな粒がたくさん入っており、それが太鼓の皮の上を滑るように移動していきます。粒の動きを見ながら、上手に速度や傾ける角度をコントロールしなければならず、簡単そうに見えて、曲に合わせて演奏するのはコツが入りそうです。みなさん、すっかり息を潜めて、布田さんが“オーシャンドラム”を操る様子を見守ります。静かに静かに、波の音が消えていき、静寂が広がると、これまた大きな拍手が起こりました。「はぁ~、すごいねぇ」「素晴らしいねぇ…」そんな声も聞こえてきました。
体だけを楽器に演奏する「ボディ・パーカッション」では、足踏みの音が良く聞こえるように、床のカーペットを一部分だけ外して、特設ステージを作りました。手のひら同士を合わせる拍手だけでなく、腕や、太ももを叩いたり、こすったり、途中では「アルプス一万尺♪」のように二人で向かい合って、手遊びをするような動きがあったり、目で見てびっくり、多彩な音にもリズムにもびっくりの一曲です。聴きながら、膝の上で指先を動かしたり、手拍子を真似したりする方も、ちらほら。身を乗り出して、聴かれている方も。お二人の演奏に刺激を受けて、みなさんの心もウキウキわくわくしながら聴いていらっしゃることが、見ていてとても伝わってきました。こちらも終わると大喝采です。
その後も、「学生時代」をみなさんにも一緒に歌っていただき、最後は「マリンバ、と言えばこの曲、という『剣の舞』で、お別れしたいと思います」と布田さん。譜面台も取り払って、お二人のスピード感溢れる演奏の様子も、客席からすっかり見ていただき、より一層の盛り上がりに。思わず「ブラボー!」と叫んでくださった方がいたり、じっと座って聴いているのが苦手な利用者さんも、部屋のすぐ外で、中の様子に耳を傾けながら、ゆらゆらとご自分のペースで楽しんでくださっていたり。思い思いに楽しんでいただけた一時間は、あっという間でした。最後の最後に、アンコールとして「北国の春」を。こちらも、何も見ないでも、すらすらと歌われる方が何人も!熊谷さん、布田さんも、みなさんの手拍子と歌のテンポに合わせて、いつもよりもゆったりと演奏してくれました。そんなことも、生演奏ならではの醍醐味ですね。
コンサートが終わり、お帰りになるみなさんは、朝に到着した時よりも、表情が生き生きとし、溢れるような満面の笑顔です。そして心なしか、姿勢も朝よりシャンとされているような…?“こころ音”の演奏が、また、みんなで一緒に楽しめたことが、みなさんを、一才と言わず、五才?十才!若返らせてくださったような気がしました。その後も、デイサービスの金曜日の利用者さんは、午後までこちらで過ごして行かれたのですが、夕方、のさりの鈴木さんから「参加された皆様の表情が良くて笑顔でお帰りになられました。体とこころが、こころ音さんの音楽に共鳴してほぐれていった気がします。大勢で醸し出されていく『しあわせな空気感』って、Liveだからこそかなぁと思いました。」とメッセージをいただきました。利用者さんも、地域の方も、スタッフのみなさんも、みんなで楽しむことのできたコンサート。こんな時間が積み重なって、地域に暮らすみなさんの安心も、少しずつ、培われていくのかもしれないな、と感じた一日でした。[この事業は、宮城県令和4年度NPO等による心の復興支援事業補助金を受けて実施しました。]