お知らせ
石巻市立病院「秋のコンサート」へ
- 2024.11.6
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仙石線を降りると、足元をスルリと冷たい風が吹き抜けていきました。駅の目の前に震災後移設された石巻市立病院。以前、緩和ケア内科部長を務めていらした日下先生よりご寄附とご依頼をいただき、打合せまで終わった後でコロナ禍となってしまいました。今日は5年越しの訪問がようやくかないました。〈宮城県・芸術銀河2024 音楽アウトリーチ普及事業〉として、2階 エントランスロビーと、7階 緩和ケア病棟 に、門脇和泉さんと小野英駿さんによるヴァイオリン二重奏のコンサートをお届けしました。小野さんは、今回が初めての、音楽の力による復興センター・東北の活動への参加でした。
外来受付が終わった後に、入院患者のみなさんを中心にお聴きいただきたい、とのことで、夕方のコンサートとなりました。会計待ちの方もいらっしゃるため、会場でのリハーサルは出来ませんでしたが、そのような条件でもお引き受け下さった和泉さん、小野さんに感謝申し上げます。小児科や産婦人科がないこともあり、入院患者さんはほぼ高齢の方のみ。コロナ前は時折開かれていた院内コンサートも、ようやく今年から、少しずつ再開され、今回で2度目とのことでした。車椅子で、歩行器を使って、ベッドのままで、診察が終わってからたくさんの方がお集まり下さいました。もちろん患者さんばかりでなく、医師や看護師さん、作業療法士さん、職員さんなど、本当にたくさんの方が入れ替わり立ち替わり、足を留めて耳を傾けて下さいました。恐らく、ざっと数えただけでも120名近くはいらしたのではないでしょうか。
「愛の挨拶」「G線上のアリア」など耳に馴染みのあるクラシックから、意外な一曲だったのは「笑点のテーマ」!「みなさんにも耳馴染みがあるかな、と思ったのですが、この曲は実は私が弾きたくて選びました!」と門脇さんが紹介され、お客様からも思わず笑いがこぼれました。その後も、以前放送されていたバラエティ番組「大改造‼劇的ビフォー・アフター」の中で、「なんということでしょう!」のナレーションに続けて流れていた曲、「匠/TAKUMI」や、四季の童謡メドレーなど、クラシックともまた一味違った、身近に感じられる音楽が続きました。そして最後は「時代劇メドレー」。小野さんが取り出したおもちゃの刀で“シャキーン!!”と始まりました。「暴れん坊将軍の」お馴染みのメロディーや、始まりのリズムですぐに分かる「水戸黄門」など、編曲も聴き応えがあり、ヴァイオリン2本だけでこんなに色々なジャンルや雰囲気の曲が弾けてしまうんだ!と、お客さんも、驚かれていた様子でした。「川の流れのように」やアンコールの「夕焼け小焼け」では、マスクの中で、口ずさまれる声も聴こえてきました。ベッドや車いすの方も多く、トークへの反応はみなさんもの静かでしたが、それでも体の自由が利かない方も、一生懸命に拍手を送ってくださいました。終わった後、「素晴らしかったねぇ~」とスタッフに声をかけてくださる方もいらっしゃり、心の中でじっくりと浸って下さっていたことが分かりました。
名残惜しくも、45分のエントランスロビー・コンサートを終えて、すぐにその足で、7階の緩和ケア病棟に移動です。演奏場所であるナースステーションの中には、既にベッドや車椅子でお待ちの方がいらっしゃいました。少しでも近くで聴けるように、廊下にベッドごと出て来られた方や、ベッドをお部屋の入口近くに移動して待っていらした方など、ナースステーションを囲むように、あちこちからみなさんのお顔が見えました。また、他階の入院患者さんへの付き添いは、感染症対策として禁止されているのですが、こちら緩和ケア病棟だけは、ご家族も一緒に過ごすことが出来ます。コンサートにも、ご家族と一緒に、という方が多数いらっしゃいました。ここが舞台と分かるように、目隠し代わりの衝立には、可愛らしい飾り付けがされています。看護師さん達のお心遣いがとても嬉しく思いました。
門脇さん、小野さんは、本番で初めて、この場所では音を出すことになりましたが、いざ演奏を始めてみると、2階とは打って変わって、とてもよく音の響くスペースでした。柔らかな弦楽器特有の音色が、一瞬にして空間に広がり、遠く離れたお部屋にもこれであれば、きっと美しいハーモニーが届いているだろうと思いました。曲は「みなさんへのご挨拶の代わりに…」とエルガーの「愛の挨拶」から。目の前のお客様に、少し、楽器の紹介をした後で、バッハの「G線上のアリア」を演奏くださいました。アリアが終わると、ベッドに横になりながら聴いていたおじいさんの手がゆっくり動きだしました。そしてそっと、目元の涙を拭っていらしたのがわかりました。ゆっくり、ゆっくりとした動きでした。アンコールに「川の流れのように」を1曲追加していただきました。1stヴァイオリンのパートを弾く小野さんと、2nd ヴァイオリンのパートを弾く和泉さん。お二人共の音色が、まず美しく、歌心があって…その音色の華やかさ、軽やかさに、”自由に”羽ばたいていくような、心を感じることができました。本当に短い時間でしたが、それでも、5年越しのお約束を叶えることができ、ようやくホッとしました。また、門脇さん、小野さんの素敵な演奏で、ヴァイオリン二重奏、という組合せの可能性も、おかげさまでたくさん知ることができました。譜面台さえあれば、そこが舞台になってしまう身軽さ。そして、ヴァイオリン2台だけとは思えないほど、豊かな音楽が生れていました。緩和ケア病棟で過ごされる患者さん、ご家族、そしてスタッフのみなさんにも、ひととき心休まる時間をお届けできましたら、これ以上のことはありません。「明日、日下先生に会うので、お話ししておきますね」帰り際、2019年にご縁をいただいた日下先生のお名前が出て驚きました!目黒看護師長さん、医事課の佐藤さん、司会を務めていただいた看護師 相澤さん、その他大勢のスタッフのみなさん、大変お世話になりありがとうございました。