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【気仙沼④】気仙沼公園住宅へ

2014.11.18

IMG_4161sカルテット・フィデスによる気仙沼ツアーもいよいよ千秋楽。午後は気仙沼市民会館の隣りにある気仙沼公園住宅を訪れました。ここは気仙沼市内で最初にできた応急仮設住宅群とのことで注目され、当初から慰問や支援が多く、1か月の間に45ものイベントが開催された時期もあったそうです。現在はその慰問ブームも過ぎて、落ち着いた様子でした。
以前、自治会長さんと打ち合わせをしたときに「せっかく仙台フィルさんが来るんだから、クラシック音楽が聴きたい」とのご希望をうかがいましたので、ここでは「名曲コンサート」と銘打ってクラシック音楽メインのプログラムをお届けしました。
IMG_4239sボッケリーニに始まり、クライスラーによる愛の三部作、そしてヴィヴァルディ「四季」より「秋」全楽章と続きます。プレハブの集会所は意外なことに弦楽器との相性が良いようで、楽器ひとつひとつの音がきちんと聞こえ、そして、その響きに身を包まれるような感じがします。そしてこの至近距離ですから、演奏家の弓づかいや呼吸までがよく見えます。音楽が「いま、目の前で、生まれている」ことを体感できるのですね。
コンサートの中盤で、ヴァイオリンの熊谷さんが「クラシックだけで大丈夫ですか?何かリクエストがあれば…」と言うと、最前列に座っていたおじいさんから「斉太郎節!」という声が上がりました(有名な宮城県松島の民謡です)。IMG_4209s
あいにく楽譜の用意がなく、少しあわてましたが、熊谷さんと御供さんが「こんな感じかしら…」と即興的に弾いてみせました。「ああ、いいねぇ」とおじいさん。急遽、この流れに乗って「おいらの船は300トン」をみなさんで歌い、拍手喝采となりました。

後半に「クラシックばかりで堅苦しいと思う方もいらっしゃるかと思って、余興をご用意しました」との紹介で登場したのはヴァイオリンの松山古流さん。1/10サイズの小さなヴァイオリンをたずさえています。IMG_4251s
本来なら5歳くらいの子供が使う楽器を大きな体の松山さんが持つと、まるで肩に載せた小鳥のようでした。演奏したのは激しい速弾きが特長のモンティ「チャルダッシュ」です。蓄音機から聞こえてくるような不思議な音色でした。

アンコールはドヴォルザークの「ユーモレスク」でした。さきほどのおじいさんが「これ、なんていうの?」と尋ねました。「ユーモレスク、ですよ」とヴィオラの御供さんが答えます。すると、
おじいさん「ダムにあるかな?」
御供さん「だむ?」
おじいさん「カラオケだよぉ、DAMだよぉ。わははは」
演奏家もたじたじです。カラオケで歌いたくなるくらい気に入ってくださってよかったです。IMG_4223s

終演後に自治会長さんが閉会のことばを述べました。
「これまで何回も『故郷』や『上を向いて歩こう』を聞きました。でも私はどうしても最後まで歌えないんです、涙がこみあげてきて・・・だから今日はクラシック音楽をお願いしたんです」
震災から3年8か月、しかし気仙沼にはあちこちにあの日の傷跡が生々しく残っています。一方で、来年6月には気仙沼で最初の復興公営住宅が完成するとの話をうかがいました。変わらないものと変わりゆくもの、そのはざまで揺れる人びとの心。そこに寄り添う音楽を私たちはこれからも届けていかなければ、と改めて思いました。