お知らせ
鳴瀬サロンへ
- 2014.12.13
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宮城県沿岸部にある東松島市鳴瀬地区は津波による甚大な被害があった地域です。そこで被災し、現在は仙台市内および近郊に移転してきた方有志が自主的に運営する「鳴瀬サロン」は、同郷者同士の交流を絶やさないようにとの願いで定期的に開催されています。60歳以上の方を中心に、いつも20名程度の参加があるそうです。
東北に限らず、関東や関西などへ避難移転した方々のためのサロンが各地で数多く開催されています。中でも「同郷サロン」にはまた格別の雰囲気があるようです。かつて同じ土地に暮らし、同じ土地で被災した人どうしだからこそ語ることのできる話や互いに分かり合える感覚がきっとあるのでしょう。さて、今日は今年最後の鳴瀬サロンに復興コンサートをお届けしました。出演は仙台オペラ協会のソプラノ齋藤翠さん、同じくバリトン鈴木誠さん、フルート山田みづほさん、ピアノ可沼美沙さんです。翠さんはまさにこの東松島市鳴瀬のご出身です。今回の出演を是非にとお願いしたところ、翠さんは「故郷の人のために歌えるのは嬉しいです」と快諾してくださいました。
このサロンでは最初にお互いの近況報告をするのが恒例だそうです。みんなで輪になって、一人ずつ順番にお話しします。その輪に演奏家も加わりました。
「近くの川に白鳥が来て毎日の散歩が楽しい」「孫が生まれて、目が回りそうな毎日です」
「風邪ひいてたけど、今日はがんばって来たの」「毎月一回のサロンが楽しみで健康管理に気をつけてます」
「公営住宅の抽選、次は当たりますようにってお願いしてきた」「最近、うちの人がぐちっぽくて困るのよ」
「今年は鳴瀬の牡蠣が大きくてびっくりした」「鳴瀬の牡蠣は特別に美味しいよね」
などなど、トピックは人それぞれです。みなさんがこの場を大切に思っていることが伝わってきました。日常の中のささやかな喜びや悩みを話して誰かと共有する場があるということは、その人にとって或る種の支えになっているのだなあと感じました。いったん休憩をはさんで、コンサートの時間となりました。幕開けは、季節にちなんでクリスマス曲のメドレーです。その後、鈴木さんが「もう飛ぶまいぞこの蝶々」を、翠さんが「恋とはどんなものかしら」を歌い、本格的なオペラアリアにみなさんは「ほぉー」と聞き惚れていました。
みづほさんのフルート独奏「歌の翼による変奏曲」「『アルルの女』よりメヌエット」では、流麗なメロディに体を揺らして聴く方がいらっしゃいました。
また、鈴木さんが「クラシック弾きの可沼さんにはご苦労をかけるのですが…」と言って、昭和の歌謡曲「黒い花びら」を披露。55年前のヒット曲に青春時代を思い出した方もいたかもしれません。
最後に「花は咲く」を演奏するとき、翠さんが「この歌を最初に聞いたときは腹が立ちました。でも、亡くなった方の視点から書かれた詞だと気付いたときにその考えが変わりました」と言いました。“復興ソング”と位置付けられたこの歌に対する思いは人それぞれで、嫌がる人もたしかにいます。しかし一方で、同じ苦労をした同郷の人びとの中で歌われるとき、その故郷の風景と重なり、亡くなった人とのつながりを思い出させ、いまこの場にいるお互いをいたわるような響きを生みます。一緒に歌いながら涙を拭う方が何名かいました。
終演後は翠さんとかつてのご近所さんが記念に写真を撮っていました。こうした形での再会も良いものですね。このサロンのお世話役である高橋明さんが言っていました。
「復興公営住宅への入居はこの春から始まったばかりですが、この半年ですでに亡くなった方が4人もいます。公営住宅に入ったから復興が終わったとは言えません。やはり人と人とのつながりは絶やしてはいけない。このサロンも継続していきたいです」
街なかでは明日の投票日を前に選挙カーが行き交って喧しいです。東北のこれからの見通しはまだまだ明るいものではないようです。